自らへの管財人報酬の源泉徴収義務は破産管財人に有りと最高裁が初判断。
2011年1月14日の日本経済新聞等でも報道されたので目にされた方も多いかと思われますが、破産会社の元従業員に支払う退職金と管財人自らに支払う管財人報酬について破産管財人が所得税を源泉徴収する義務があるかが争われた訴訟で、最高裁は、退職金については源泉徴収義務を負わないが、管財人報酬についてじは源泉徴収義務を負うと初判断(最高裁 2011年01月14日 平成20年(行ツ)236号)。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110114143526.pdf
国税庁は、さっそく、「破産前の雇用関係に基づく給与又は退職手当等の債権に対する配当に係る源泉所得税の還付について(お知らせ)」を公表するなど、退職金についての国側の逆転敗訴が話題になっていますが、倒産法関連業務に携わるいわゆる「倒産村」の弁護士の間では、管財人報酬についての源泉徴収義務有の判断が話題になっているようです。
■従来の実務
破産手続開始後に破産管財人が、元従業員を雇用し給与を支払ったり、公認会計士、税理士等の補助者に業務を委任し報酬を支払う場合は源泉徴収義務が行われていたようですが、破産開始前の破産者が結んだ雇用契約に基づく給与・退職金等の支払や、破産管財人報酬の支払いは源泉徴収は行われていませんでした。
■今後の実務
既に裁判所の指導が始まっているようですが、管財人自らに支払う管財人報酬について、破産管財人が所得税を源泉徴収するよう実務も変更を余儀なくされます。
■納税地等
前述の最高裁判決は、「破産財団を責任財産として、破産管財人が、自ら行った管財業務の対価として、自らその支払いを受けるのであるから、弁護士である破産管財人は、その報酬につき、所得税法204条1項にいう「支払をする者」に当たり、同項2号の規定に基づき、自らの報酬の支払いの際にその報酬について所得税を徴収し、これを国に納付する義務を負うと解するのが相当である。」と判断しているため、破産者ではなく、破産管財人である弁護士の名義で弁護士事務所の所在地を納税地として源泉所得税を納付するのかという疑義も生じているようです。
これについては、国税あるいは裁判所から何らかのアナウンスがこれからあるのかもしれませんが、「破産財団を責任財産として」とされていることや、管財人及び課税当局の事務処理の簡便性を考慮し、従来の元従業員や補助者への支払時の実務と同様に、破産者名義で破産者の事務所等を納税地とし源泉所得税を納付するので良いのではないかと個人的には思います。
■その他の疑問
その他、破産財団が財団債権の弁済に足りないときはどうなるのか、破産管財人報酬は破産者の消費税の確定申告で仕入税額控除できないのかというようなさまざまな疑問も生じてきます。
それらの点については、本訴訟が進行中に執筆されたものですが、大阪弁護士会友新会(編集) 「新版 弁護士業務にまつわる税法の落とし穴」(2007年3月)の永島正春弁護士による「第5章 破産管財人は税金を忘れるな」が大変参考になります。
本書の見解によるならば、破産財団が財団債権の弁済に足りないときは管財人報酬は破産財団の管理・換価に関する費用として他の財団債権、管財人報酬の源泉所得税等に優先することになり、変な話ですが本最高裁判決により逆に国税は管財人報酬の源泉所得税相当部分を取り損ねる可能性が生じてしまうことになりそうです。
また、永島正春弁護士は、東京地裁から最後配当の許可申請前に報酬決定の内示を得て、破産管財人報酬に関して消費税の仕入税額控除を行ったこともあるそうです。
破産だけでなく、普通清算でも感じるのですが、法的手続と税法の整合性が今一つで対応に苦慮することが多く、今後の大いなる改善を期待したいところです。
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