これも「技あり」の民事再生法の活用でしょうか?ビ・ライフ投資法人とJ-REITのニューシティ・レジデンス投資法人の適格合併による青色繰越欠損金の引き継ぎ。「内部留保できるリート・・・民事再生で生まれた繰越欠損金」(「2010年11月1日 第807号 バードレポート」より)
私が愛読している、山浦邦夫税理士が発行するFAXレポート「バードレポート」2010年11月1日第807号は、「内部留保できるリート・・・民事再生で生まれた繰越欠損金」。
当ブログでも、J-REIT(上場不動産投資信託)初の倒産で話題を呼んだニューシティ・レジデンス投資法人がローンスターグループをスポンサーとした再生計画案を2009年4月に東京地方裁判所へ提出したところまでご紹介していましたが、その後がまた大変。
金融機関が反対に回り当初の民事再生手続は、2009年9月に再生計画案が否決され手続廃止。
すると、2009年10月に、大和ハウス工業株式会社とビ・ライフ投資法人をスポンサーとする新たな民事再生手続が申し立てられ開始決定、今度は、2010年1月にビ・ライフ投資法人がニューシティ・レジデンス投資法人を吸収合併するという再生計画案が見事認可決定確定。
バードレポートの記事によると、適格合併による青色繰越欠損金の引き継ぎにより、リートなのに配当可能利益の90%超の配当をせずに内部留保が可能となる、「技あり」の民事再生法の活用だったようです。
■投資法人における支払配当の損金算入の要件:配当可能利益の90%超の配当
不動産証券化における投資法人等は、単なる投資資金を集めるヴィークル(器)であって、導管体としての機能しかないとされ、 投資法人等をパス・スルーして利益を分配する投資家側で課税するという、パススルー課税(構成員課税)の考え方がとられます。
しかし、その要件の1つとして、投資法人の支払配当の額が配当可能利益の額の90%相当額を超えていることがあります。
■民事再生法における資産の評価損の計上
企業会計上は固定資産の減損損失の計上が必要な場合でも、税務上は原則として資産の評価損が認められていませんが、民事再生会社の場合、要件を満たせば資産の評価損の計上が可能です。
■適格合併の場合の青色繰越欠損金の引き継ぎ
適格合併の場合は一定の要件を満たすことにより、青色繰越欠損金の引き継ぎが可能です。
■ビ・ライフ投資法人とJ-REITのニューシティ・レジデンス投資法人の合併
バードレポートの記事によると、民事再生法における資産の評価損の計上と適格合併の場合の青色繰越欠損金の引き継ぎの税制を活用することにより、推定480億円の青色繰越欠損金を引き継ぎ、旧ニューシティ・レジデンス物件を売却し10億円の売却益を計上したにもかかわらず、配当に回さず内部留保することを公表しているようです。
■上記からわかること
欠損金の繰戻し還付目的だった株式会社プロパストと並ぶ「技あり」の民事再生法の活用ではないでしょうか?
我々事業再生に関わる税務会計専門家は、組織再編税制、グループ法人税制と企業再生税制を絡めた新たなスキームの検討・開発に向けてさらなる勉強が必要なようです。
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コメント
はじめまして!
いつも楽しく拝見させていただいております。
本当に事業再生に関するスキームはいろんなものが考えだされておもしろいですね!だからこそ勉強のしがいがあるというものです。
監査法人勤務時代は事業再生は苦手分野でした。企業結合に関する会計基準もやけに分厚かったですし。でも、事業再生の成否は、会社の運命に直結します。そういう「やりがい」にひかれて独立後は積極的に再生がらみの仕事をやらせていただいております。
いつかお仕事でご一緒する日が来るかもしれませんが、その時はどうぞ宜しくお願いします!
更新楽しみにしてますね!
投稿: @港区 | 2010年11月 2日 (火) 02時09分
@港区 さん、コメントありがとうございます。
事業再生の手法は、この10年ですごく進化しましたし、関与する方もものすごく増えたように思えます。
更新、ご期待に応えることができますようがんばります。
投稿: | 2010年11月 3日 (水) 03時20分