「東京地裁 粉飾決算による棚卸商品過大計上損に対する更正を支持 過去の粉飾による損失はその後の事業年度の損失には該当せず」(「週刊税務通信3133号 2010年10月04日」より)
「週刊税務通信3133号 2010年10月04日」によると、東京地裁は、企業が過去に行った粉飾決算により水増しした棚卸金額をその後の事業年度において損失として計上した経理処理に対する課税当局の更正処分を正当なものとする判決を行ったとのこと(平成22年9月10日判決言渡 平成21年(行ウ)第380号)。
過去に過大に棚卸商品を計上する粉飾決算を行っていた企業が、その後の事業年度において損益計算書の特別損失の項目に棚卸商品過大計上損の科目でその粉飾決算を行った金額を計上し、その金額を損金の額に算入して法人税を申告したが課税当局は損金算入を認めず更正処分を行ったため、企業が処分の取消しを求めて提起した訴訟で、東京地裁民事第38部の杉原則彦裁判長は、過去の粉飾決算により棚卸商品過大計上となった金額は、その後の事業年度の損失には該当しないことから,企業の請求は理由がないとして請求を棄却したのこと。
この事案は控訴されているとのことですが、棚卸資産の過大計上は事業再生の現場でよくみかける不適切経理手法であり、その対応には十分な注意が必要です。
■過年度仮装経理の修正損は民事再生法開始決定時の資産の評価損に当らないとされた例
上記の税務通信に掲載された判例は、民事再生法開始決定時の資産の評価損として計上されたものではないようですが、次のような国税不服審判所の裁決例もあるのでご注意を。
請求人は、本件事業年度において、民事再生法に基づく再生手続開始の申立てを行い、同法に基づく財産価額の評定の準備を始めていたのであるから、評価損として計上した過年度棚卸資産廃棄損の額を本件事業年度の損金の額に算入すべきである旨主張する。しかしながら、過年度棚卸資産廃棄損の額は、請求人が本件事業年度前の各事業年度の棚卸資産に係る粉飾額を計上したものにすぎず、その全額が本件事業年度において生じたものでないことが明らかであるから、過年度棚卸資産廃棄損の額を本件事業年度の損金の額に算入することはできない。(平18.11.21 関裁(法)平18-31)
http://www.kfs.go.jp/service/JP/72/22/index.html
■上記からわかること
棚卸資産の過大計上は、民事再生手続上の財産評定及び債務免除益対策のタックス・プランニングの局面、私的整理での財務調査の局面等でみかける典型的な不適切経理手法。
上記の東京地裁判決や国税不服審判所の裁決例を見ればわかるとおり、棚卸資産の過大計上額の損金計上時期の期間帰属の適正性には十分な注意が必要で、過年度のものについては更正の請求、更正の請求期限が過ぎたものは税務署長の職権による更正を上申(嘆願)する対応が求められます。
その調査、手続は、実際に経験するとすごく大変なのも事実ですが、そこは我々事業再生に関わる税務会計専門家の腕の見せどころでもあり、場合によっては過年度の税金が還付となる醍醐味もあります。
事業再生に関する税制、特に不適切経理が絡んでくると、その税務会計対策はかなり難しく、その節はご遠慮なくご相談を。
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