日本のフォーク・ロックの荒野を切り開いた天才、加藤和彦、待望の本格追悼本。「文藝別冊 加藤和彦 あの素晴しい音をもう一度 (KAWADE夢ムック 文藝別冊)」
最近の停滞ぶりからうっかり忘れていましたが、少年時代、自分の趣味形成にあたって実は最も影響を受けたのかもしれないことを、その死により気がつかされた加藤和彦。
忌野清志郎に比べて何だかさびしい気がする、何もなかった日本のフォーク・ロックの荒野を切り開いた天才、加藤和彦の追悼企画ですが、ようやく本格的な追悼本、「文藝別冊 加藤和彦 あの素晴しい音をもう一度 (KAWADE夢ムック 文藝別冊)」(2010年2月)が発売。
きたやまおさむ、高橋幸宏、小原礼、 サエキけんぞう、小田和正、細野晴臣、松山猛、横尾忠則、立花ハジメ、岡田徹(ムーンライダーズ)、堀江博久、あがた森魚、岩井俊二、川勝正幸、菊地成孔、とり・みき、本秀康、高野寛、山本精一、曽我部恵一、安田謙一、湯浅学、田中雄二等の加藤和彦ゆかりの方々のコメント、思わず「そうそう」とうなずきたくなる、ファン満足の一冊です。
まずは、注目は、坂本龍一が幸宏にとって兄弟みたいな存在だからと心配したという高橋幸宏(ユキヒロ)の特別インタビュー。
亡くなる10日くらい前に、フォーキーな音楽に電子音を混ぜたら面白いから今度二人でやってみないと提案していたとのことで、実現に至らず大変残念。
サエキけんぞうの、1stソロ「ぼくのそばにおいでよ」(1969年)のジャケットに掲載されていた「児雷也顛末記」等の、加藤和彦が人生の節目に書いてきた、遺書と同様の「シリアスなトーン」の文章にスポットを当てた論考も、加藤和彦のラジカルな側面をよく捉えていて興味深い。
以前に当ブログでご紹介したものの、その後どうも品薄のようだった、「ロック画報 (16) 特集 ザ・フォーク・クルセダーズ リターンズ」(2004年6月)、「ロック画報 (17)特集 めんたいビート」(2004年9月)の2号に渡って掲載された田口史人によるインタビューが再録され、ご覧になっていない方には朗報。
岡田徹(ムーンライダーズ)が語る、レギュラーの音楽番組は、知る人ぞ知る加藤和彦&竹内マリア司会のTBSのTV番組「アップルハウス」。
以前にもご紹介した、You Tub上の、サディスティック・ミカ・バンド(Sadistic Mika Band)の名曲「サイクリング・ブギ」の1981年1月の「アップルハウス」での、加藤和彦+竹内まりや+高中正義+鈴木慶一抜きのムーンライダーズ(Moonriders)による映像。
http://www.youtube.com/watch?v=u_yDJ-0Mpss
川勝正幸が加藤和彦&安井かずみ夫妻に同行したヨーロッパでの取材旅行の、ビジネスクラスのエアーと四つ星ホテルを自腹でファーストクラスと五つ星へのアップグレードと、肉眼で見たのが最初で最後だというルイ・ヴィトンのフルセットの思い出話もいかにものという感じ。
安田謙一の、「平凡パンチ」、「an an」、「POPEYE」、「BRUTUS」の発行元、マガジンハウスに、加藤和彦の写真集を出してくださいという意見には大賛成(笑)。
客観的なコメントも遠慮なく掲載されているのが本書のポイントで、ほぼ私と同世代の菊地成孔が語る、少年時代に受けた加藤和彦のある種の貴族性の衝撃と後から振り返ってみて感じる違和感も、確かに頷けるものもあります。
田中雄二の、今井裕に対する加藤和彦の振る舞いに対する、歴史修正主義者のようだとの指摘も、私もそう思っていた部分であり、天才にありがちなエゴイズム、これもまた加藤和彦の一面でしょうか。
ひとつだけ言わせてもらえれば、サディスティック・ミカ・バンド(Sadistic Mika Band)からヨーロッパ3部作にかけての加藤和彦の最大のフォロワー、今野雄二のコメントがないのが本書の大変残念なところ。
ところで、加藤和彦ファンの方に、なかなか気が付きにくい情報をひとつ。
「PROSOUND 2009年12月号」で、レコーディング・エンジニアとして最近の加藤和彦作品に関与していたオノ セイゲン(SEIGEN ONO)が、「音楽そのものが世の中に必要なものなのか」と題して、加藤和彦について語っています。
その中で、ヨーロッパ三部作のリマスタリングについて、どんな最新技術を使うか、定位感や楽器の倍音、空間、立体感、アンビエンスを創り出すか、音質の扱い方など、かなり具体的に本人から依頼があり、テープの所在につき関係者から連絡を待っている状態であったとのこと。
また、ザ・フォーク・クルセダーズの「戦争と平和」(2002年)、「新結成記念 解散音楽會」(2002年)のサラウンド版も完成寸前の状態であるとのこと。
ヨーロッパ三部作については、2004年の再発リマスター盤がオリジナル・マスターを使用しておらず、「パパ・ヘミングウェイ(Papa Hemingway)」(1979年)での佐藤奈々子のヴォーカルがカットされているなど問題有との指摘がありますので、ぜひ加藤和彦の命を受けたオノ セイゲン(SEIGEN ONO)リマスタリング盤、実現させてもらいたいものです。
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