DESに関する税務上の債権の時価の公的な検討結果。経済産業省が「事業再生に係るDES(Debt Equity Swap:債務の株式化)研究会報告書」を公表。
経済産業省は、企業再生税制の適用対象となる一定の私的整理の場面におけるDESに関する税務上の時価評価の方法を検討するため、平成21年8月に「事業再生に係るDES研究会」を立ち上げていましたが、2010年1月14日、とりまとめた「事業再生に係るDES(Debt Equity Swap:債務の株式化)研究会報告書」を公表。
http://www.meti.go.jp/report/data/g100114aj.html
「週間 経営財務 No.2951 2010年1月25日号」によれば、同報告書による検討結果は、今後、国税当局に照会が行われる見通しのことであり、平成18年税制改正以後、不明確と言われてきた、DESに関する税務上の債権の時価が明確化されそうです。
■DES(デット・エクイティ・スワップ:Debt Equity Swap:債務の株式化)とは
通称DES、デット・エクイティ・スワップ(債務の資本化)とは、債権者が債務者に対する債権を現物出資し債務者の債務を消滅させ、債務者の資本を増加させる増資の手法。
■DES(デット・エクイティ・スワップ:Debt Equity Swap:債務の株式化)の税務
以前は、債務者側の税務上の取り扱いが明確ではなかったのですが、平成18年度税制改正において、新株発行において増加する資本金等の額は、払い込まれた金銭の額および給付を受けた金銭以外の資産の価額(現物出資資産の時価)と規定。
債務超過会社など経営が悪化した会社でDESを行うと、債権の時価と額面額との差額が債務消滅益として課税される可能性が生じましたが、今度は税務上の債権の時価とは何なのかが問題に。
■「事業再生に係るDES(Debt Equity Swap:債務の株式化)研究会報告書」
・検討対象
DESは再生局面以外の様々な場合でも行われることが想定されますが、今回の検討対象は、企業再生税制の適用対象となる一定の私的整理(法人税法施行令24条の2第1項の要件を満たすもの)におけるDES。
・DESの対象となる債権の税務上の評価方法
企業再生税制の適用場面におけるDESの対象となる債権の税務上の評価を行う場合、(1)再生企業の合理的に見積られた回収可能額を算定し、(2)それを基に留保される債権とDESの対象となる債権に分け、(3)DESの対象となる債権の時価を決めることになり、債権者がDESにより取得する株式は、DESの対象となる債権の時価を用いて評価することになるとのこと。
・再生企業の合理的に見積もられた回収可能額
企業再生税制が適用されるような再生の実務では、実務上、債権者会議の開催に先立ち、資産評定基準に基づき、各資産項目及び各負債項目ごとに評価を行い、実態貸借対照表が作成される。そして、この実態貸借対照表の債務超過金額をベースに債権者調整が行われ、事業再生計画における損益の見込み等を考慮して債務免除額が決定される。このように,再生企業,債権者双方の合意のもと、再生企業の合理的に見積られた回収可能額に基づいて債務免除額が決定されることとなる。
・DESの対象となる債権の時価
企業再生税制の適用される案件で、DESが行われる場合においても、再生企業からの回収可能額は、債務免除のみを行う場合と同様に算定される。このことから、再生企業が受け入れたDESの対象となる債権の時価は、合理的に見積られた再生企業からの回収可能額に基づき評価することとなる。このような場合において,再生企業からの回収可能額の算定は、上記に従い作成した実態貸借対照表の債務超過金額に上記の損益の見込み等を考慮して算定されることとなる。
・DESに伴い交付された株式の税務上の時価
金銭以外の資産の給付により取得した有価証券の取得価額は、法人税法施行令119条1項2号において、給付をした金銭以外の資産の価額の合計額とされている。この点、DESは、債権者が保有する金銭以外の資産である債権を現物出資し、その対価として株式の交付を受けるものであるため、交付を受ける株式の取得価額は、現物出資をする債権の時価によることとなる。この場合における現物出資債権の時価は、企業再生税制の適用場面においては、再生企業、債権者双方が合意をした回収可能額に基づき評価をすることが合理的であり、かつ、再生企業の処理とも整合的である。このため、DESに伴い交付された株式の税務上の評価額は、上記により算定されるDESの対象となる債権の時価となる。
■上記から感じること
平成18年税制改正以後、不明確と言われてきた、DESに関する税務上の債権の時価ですが、従来は、「流動化目的の債権の適正評価について」(1998年10月28日日本公認会計士協会)を参考にすべきとの見解などがありましたが、企業再生税制の適用場面におけるDESの実務に携わるメンバーによる本報告書の検討結果は、より具体的かつ実務的な内容という印象。
平成18年税制改正以後、税務上の債権の時価が不明確なこともあり利用が減少していたと言われるDES、平成21年税制改正でのいわゆる期限切れ欠損金の優先控除の対象に一定の私的整理でのDESによる債務消滅益が加わったことも有り、事業再生手法としての利用の活発化が期待されます。
| 固定リンク
« 八橋義幸(八ツ橋義幸)、蔦谷好位置のいい仕事。Superfly(スーパーフライ)「Box Emotions」 | トップページ | 大変失礼ながら代表作と呼びたくなる、「外仕事」のベスト盤。土岐麻子(ASAKO TOKI)「VOICE~Works Best~」 »
「事業再生・倒産等(ややプロ向)」カテゴリの記事
- 「倒産」状態の債務者に対する債務免除に関する税務について執筆させていただいた書籍の改訂版が発売されました。リスクモンスター株式会社(編)「与信管理論〔第2版〕」(2015.07.19)
- 保証人、債権者ともに課税関係は生じないことが確認されています。「経営者保証に関するガイドライン」に基づく保証債務の整理に係る課税関係の整理に関するQ&Aについて」(2014.06.21)
- 会社更生手続以外の実務にも実務に活かせる事業再生ノウハウの最前線の調査分析。松下淳一 (編集)・事業再生研究機構 (編集) 「新・更生計画の実務と理論」(2014.05.25)
- 民事再生法の正しい理解に活用するのに最適な統計値。山本和彦、山本研(編集)「民事再生法の実証的研究」(2014.04.27)
「会社・個人の税金・会計」カテゴリの記事
- 紙幅は狭いながら濃い内容です。「〔特集〕2018よい節税悪い節税」週刊エコノミスト 2018年01月30日号(2018.02.11)
- 元旦日本経済新聞1面。「パンゲアの扉 つながる世界 溶けゆく境界 もう戻れない デジタルの翼、個を放つ 混迷の先描けるか」(2018.01.01)
- 遂にグローバルタックスプランニングにも言及。「大増税&マイナンバー時代の節税術」 (週刊ダイヤモンド 2017年 12/23 号)。(2017.12.24)
- 一番使いやすい。島田 哲宏(著)「Q&Aで解決 欠損金の繰越控除の判断とポイント」(2017.02.11)
- 特に、資産課税関係に注目です。自由民主党、「平成29年税制改正大綱」を公表。(2016.12.11)
コメント