知的好奇心をそそるリスク・プレミアムの深遠なる世界。山口勝業 「日本経済のリスク・プレミアム―「見えざるリターン」を長期データから読み解く」
先日ご紹介した中小企業庁が本年(平成21年)2月に公表した「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」でも、紹介されていましたが、企業価値評価算定・株価算定業務に用いる日本のリスク・プレミアムを公表しているのが、イボットソン・アソシエイツ・ジャパン株式会社(Ibbotson Associates Japan Inc.)。
そのイボットソン・アソシエイツ・ジャパン株式会社の代表取締役社長である山口勝業氏が執筆されたリスク・プレミアムに関する研究書、 「日本経済のリスク・プレミアム」(2007年3月)が、ものすごく面白い。
何しろ、本書の著者紹介によると、「投資理論をマンガのようにわかりやすく教える」がモットー、愛読書は「ゲゲゲの鬼太郎」、好きな歌手は井上陽水と中島みゆきだそうですから。
■「NHKスペシャル マネー革命」(1998年)のネタ本の翻訳者
抜群に面白い投資理論をめぐるTVドキメンタリー番組だった「NHKスペシャル マネー革命」(1998年)のネタ本、ピーター・L. バーンスタイン(Peter L. Bernstein)「投資理論の思想革命」(初版:1993年、普及版:2006年12月)を、 故青山譲横浜国立大学教授とともに翻訳したのが山口勝業氏。
山口勝業氏は、もともと日本長期信用銀行の出身で、1984年にイェール大学に留学した時に、Ibbotson Associates社の創業者でもあるロジャー・イボットソン(Roger Ibbotson)に師事したことが、氏の現在の活躍につながっているらしい。
■「ポジション・トーク」を微塵も感じさせない、歯に衣着せぬ分析
「日本経済のリスク・プレミアム」(2007年3月)の面白さは、イボットソン・アソシエイツ・ジャパン株式会社社長という地位に基づく「ポジション・トーク」を微塵も感じさせない、歯に衣着せぬ分析。
何しろ、重要商品の「リスク・プレミアム」について、資本主義国の最先端国であり20世紀の「勝ち組」である米国の株式データを用いることに対する理論的批判であるサバイバル・バイアスをもじって、日本についても戦後の復興による驚異的な成長に基づくものであると「リバイバル・バイアス」という理論的批判を自ら展開。
また、「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」で紹介されている同じく同社の商品である「小規模リスクプレミアム」(ただし米国のデータに依拠)についても、具体的な説明は本書をご覧になっていただくとして、特定の産業要因によるものを除くと実は日本においては小規模リスクプレミアムは存在していなかったとのショッキングな見解を披露。
■加重平均資本コスト(WACC)を用いたDCF法は本当に理論的に正しいか?
一般に理論的とされ、「企業価値評価ガイドライン」や「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」でも大きく取り上げられている加重平均資本コスト(WACC)を用いたDCF法。
「日本経済のリスク・プレミアム」(2007年3月)は、加重平均資本コスト(WACC)を用いたDCF法を常識のように用いている我々会計専門家に、同方法の合理性についてゼロ・ベースで考え直させてくれる良書だと思います。
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