金融機関との取引のルール・ブックにして、隠れた事業再生実務書の名著がさらなるパワー・アップ。「銀行窓口の法務対策3800講」
以下、 「銀行窓口の法務対策3800講」の事業再生に関する注目点につき、何点かコメントさせていただきます。
■信用金庫の出資金と会社更生・民事再生・破産の各倒産手続での相殺の可否
これは、改訂前の「銀行窓口の法務対策3300講」(2005年1月)でも明確に記載されていたところですが、実務上、よく混乱が見受けられるところで、「Ⅲ 貸出・管理・保証編」の第5章協同組織金融機関の部分で触れられていますのでご注意を。
結論的には、会社更生・民事再生では、手続開始時に出資金の払戻債務を負担していること等が必要であるため実際に相殺するのは困難、破産では払戻債務の停止条件が破産手続開始後に成就した場合でも相殺できるとするのが下級審裁判例の立場との見解が明示されています。
■会社分割
最近の事業再生のトレンド、会社分割については、「Ⅲ 貸出・管理・保証編」で、従来の3講から5講へパワー・アップ。
特に、最近積極的に喧伝されている金融機関をも含めた債権者への債権者保護手続を必要としない会社分割を受けてか、「詐害的な会社分割への対処」の講が新設。
結論的には、債権者保護手続により異議申述の機会が与えられていれば異議を申し述べ、異議を述べても弁済や担保提供等を受けることができない場合には会社分割無効訴訟を提起、債権者保護手続が不要で異議申述の機会が与えられていなければ、民法の詐害行為取消権によって保護されるとの見解が明示されています。
■DIP型会社更生、商取引債権100%弁済型会社更生
かなり最新の事業再生トレンド、DIP型会社更生、商取引債権100%弁済型会社更生についても、「Ⅴ 担保権の実行・事業再生編」で言及しておりこれは少々驚き。
NBL895号「会社更生事件の最近の実情と新たな展開-債務者会社が会社更生手続を利用しやすくするための方策:DIP型会社更生手続の運用と導入を中心に」等で公表された、最新の東京地方裁判所民事第8部の見解・実務を紹介。
結論的には、下記につき紹介。
DIP型会社更生の許容が可能となりうる要件
①現経営陣に不正など違法な経営責任の問題がないこと
②主要債権者(メイン銀行など)の反対がないこと
③スポンサーとなるべき者がいる場合は、その了解があること
④現経営陣が経営に関与することによって適正な会社更生の遂行が損なわれるような事情がないこと
商取引債権100%弁済型会社更生の許容が可能となりうる要件
①商取引債権者が、従前の支払サイトで取引継続を承諾すること
②債務者の規模・負債総額・資金繰りの状況をふまえて、相対的であっても、商取引債権一般が「少額」といえること
③商取引債権を弁済することで事業の価値の毀損が防止され、商取引債権の弁済を行わない場合と比べて金融機関債権者等への弁済率も向上するといった事情が認められること
「銀行窓口の法務対策3800講」、全巻揃えるとすると税込7,770円×5冊=38,850円の出費にはなりますが、我々税務会計専門家にとって嬉しいパワー・アップです。
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