平成21年(2009年)税制改正でこうなるNo.22。企業再生関係税制:評価損益の対象となる資産の範囲の拡大(債権・少額資産)(法人)
前回に引き続き、平成21年(2009年)税制改正によりどこがどう変わったのか概要を確認して行く「平成21年(2009年)税制改正でこうなる」シリーズの第22回。
今回は、作年の12月12日に、自由民主党平成21年度税制改正大綱(2009年度与党税制改正大綱)が発表された際にもすぐに当ブログでも触れさせていただいた、私が最も注目させていただいている改正、企業再生関係税制:評評価損益の対象となる資産の範囲の拡大(債権・少額資産)((法人)です。
■従来の制度の概要
法人が資産の評価換えを行った場合の評価損益は、原則として、法人税の各事業年度の所得計算上、損金又は益金に算入されませんが、下記のような企業再生等の一定の事実が生じた場合は損金又は益金の額に算入できます。
【いわゆる「損金経理方式」】
内国法人の有する資産(預金、貯金、貸付金、売掛金その他の債権を除く)につき、
会社更生法等の規定による更生計画認可の決定があったことによりこれらの法律の規定に従ってその評価換えをする必要が生じたこと、
その他一定の事実が生じた場合において、
その内国法人が当該資産の評価換えをして損金経理等によりその帳簿価額を減額又は増額したとき、
その減額又は増額した部分の金額のうち、
その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額(これらの法律の規定に従って行う評価換えの場合にあっては、その減額又は増額した部分の金額)は、
これらの評価換えをした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金又は益金の額に算入されます。
【いわゆる「別表添付方式」】
従来の損金経理方式)に加え、平成17年度改正で別表添付方式の規定が新設されました。
再生計画認可の決定等があったこと、
その他一定の事実が生じた場合において、
その内国法人が行った資産の評定の評価損益は、
一定の含み損益が少額の資産(資本金等の額の1/2相当額と1,000万円のいずれか少ない金額に満たない資産)等を除き、
確定申告書に評価損益明細の記載と評価損益関係書類の添付を条件に、
損金又は益金に算入されます。
■平成21年(2009年)税制改正による評評価損益の対象となる資産の範囲の拡大の概要
【債権も資産の評価損の対象】
平成21年4月1日以後に行う評価換え又は同日以後に再生計画認可の決定等があったことその他一定の事実が生じた場合について、損金経理方式、別表添付方式の評価損の対象となる資産の範囲に、貸付金、売掛金その他の債権が加えられました。
【別表添付方式での評価損益の計上対象となる資産の拡大】
従来は資産の評価差額の最低限度は一定の資産区分ごとに資本金等の額の1/2相当額と1,000万円のいずれか少ない金額 とされており、事業再生に支障が生じる可能性がありましたが、平成21年4月1日以後に再生計画認可の決定等があったこと、その他一定の事実が生じた場合については、有利子負債の額が少額(10億円未満)である企業再生である中小規模再生は、資産の評価差額の最低限度を資本金等の額の1/2相当額と100万円のいずれか少ない金額 とされました。
■上記の改正から感じること
【事業再生に携わる税務会計専門家へのビック・ニュース】
従来の制度では、売上債権や営業差入保証金が多額な卸売業、建物等の賃貸借に関する敷金・差入保証金が多額な小売業や飲食業の事業再生案件においては、債権の資産の評価損の損金性がネックとなり債務免除益課税の問題から、既存会社による自主再建又は減増資によるスポンサー支援スキームがとれず、やむなく事業譲渡スキームを取らざるを得ないようなケースがよく見受けられました。
以前にご紹介したように、民事再生法、会社更生法等での法人税法上計上可能な資産の評価損の対象に、債権が加わるというのは、事業再生に携わる税務会計専門家としてビック・ニュースで、「悲願達成」といっても良いかもしれません。
【会計上損金経理の対象とならない債権は注意が必要】
ただし、税務専門誌等の見解によると、損金経理方式を選択した場合は、会計上損金経理の対象とならない債権は、損金経理要件を満たさないため、従来どおり資産の評価損の対象とならないと解するようですので注意が必要なようです。
【会計上の企業再生における資産及び負債の評価】
会計制度委員会研究報告第11号「継続企業の前提が成立していない会社等における資産及び負債の評価について」(日本公認会計士協会)によれば、参考とすべき会計上の基本的な考え方を以下のように例示しています。
更生会社は、通常、開始時の債務超過により株主から更生債権者、更生担保権者等への会社の所有者の交代及び資産の譲渡を擬制できるため、開始決定時及び認可決定時において資産及び負債をすべて評価替えする必要があると考えられますが、評価益の計上を伴うのれんの計上には慎重であるべきとします。
再生会社は、開始決定時に株主は権利を失わず、更生会社のように会社の所有者の交代と資産の譲渡の擬制は困難であるため、継続企業の前提の不成立の会社としすべての資産及び負債の評価替えの強制するのは適当でなく、開始申立を減損の兆候とみなし再生計画に基づく将来キャッシュ・フローによる減損会計の適用が必要と考えられるとされます。
【継続企業の前提が成立している場合の会計上の金銭債権の評価】
「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見」によれば、一般的には、受取手形、売掛金、貸付金等の債権については市場がない場合が多く、客観的な時価を測定することが困難であると考えられるので、原則として時価評価は行わないこととしたとされています。
「金融商品に係る会計基準」によれば、受取手形、売掛金、貸付金その他の債権の貸借対照表価額は、原則として、取得価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とされます。
会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(日本公認会計士協会)によれば、債権の回収可能性がほとんどないと判断された場合には、貸倒損失額を債権から直接減額して、当該貸倒損失額と当該債権に係る前期貸倒引当金残高のいずれか少ない金額まで貸倒引当金を取り崩し当期貸倒損失額と相殺しなければならないとします。
【有利子負債の額が10億円以上の再生の場合は特に注意】
上記から、売掛金、貸付金等の債権について会計上損金経理が困難な含み損がある場合は、別表添付方式による評価損計上を検討することになりますが、有利子負債の額が10億円以上だと、改正後でも、債務者ごとに資本金等の額の1/2相当額と1,000万円のいずれか少ない金額以上の含み損がないと税務上評価損の計上ができませんので、特に注意が必要です。
改正公表直後は、今後、事業再生における債務免除益課税の問題の解決がかなり楽になるのではないかと期待しておりましたが、まだまだ、難題は多く、我々税務会計専門家の出番は多そうです。
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