平成21年(2009年)税制改正でこうなるNo.17。非上場株式等に関する相続税の納税猶予制度の創設(個人)
前回に引き続き、平成21年(2009年)税制改正によりどこがどう変わったのか概要を確認して行く「平成21年(2009年)税制改正でこうなる」シリーズの第17回。
今回は、当ブログでも昨年ご紹介した与党=自民党の平成20年度税制改正大綱の目玉として示されていた中小企業事業承継税制の拡充について、平成21年(2009年)税制改正により詳細が決定された、非上場株式等に関する相続税の納税猶予制度の創設(個人)についてです。
簡単に言うと、中小企業の事業承継の障害である相続税負担の問題を解決するため
・一定の要件を満たせば自社株評価に関し10%減額する現行制度から
・一定の要件を満たせば自社株評価に関し80%納税猶予(さらに一定の場合に猶予税額の納税をも免除)する制度
に改正されました。
■従来の制度の概要
・一定の要件を満たせば自社株の課税価格から10%減額
・対象会社
発行済株式総額20億円未満の会社
・被相続人
本人と同族関係者(6親等内の親族)で株式の50%超を保有
・減額対象の上限
相続した株式のうち、発行済株式総数の2/3又は評価額10億円までの部分のいずれか低い額
・小規模宅地の特例との選択適用
■改正後の制度の概要
・一定の要件を満たせば自社株評価に関し80%納税猶予(さらに一定の場合に猶予税額の納税をも免除)
・対象会社
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「経営承継円滑法」)第2条及び同法施行令で定義される「中小企業者」(中小企業基本法上の中小企業より、やや拡大された概念)。
業種 :従業員規模・資本金規模
製造業・その他の業種 :300人以下又は3億円以下 (注1)
卸売業 :100人以下又は1億円以下
小売業 :50人以下又は5,000万円以下
サービス業 :100人以下又は5,000万円以下(注2)
(注1)ゴム製品製造業(自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く。)については、900人以下又は3億円以下。
(注2)ソフトウェア業又は情報処理サービス業については、300人以下又は3億円以下。旅館業については、200人以下又は5,000万円以下。
その他、会社法上の会社であること、非上場会社であること、性風俗営業会社でないこと、資産保有型会社・資産運用型会社に該当しないこと等の一定の要件をすべて満たすことも必要。
・被相続人
相続人の親族であること
会社の代表者であったこと
その相続開始直前に経済産業大臣の事前確認を受けた「特定代表者」であること
その相続開始直前に50%超株主グループの筆頭株主であったこと
等一定のすべての要件を満たしていることが必要。
・相続人
その相続開始日から5ヶ月目に代表権を有していること
その相続開始時以後に50%超株主グループの筆頭株主であること
その相続開始直前に被相続人の親族であったこと
その相続開始時に経済産業大臣の事前確認を受けた「特定後継者」であったこと
その相続開始直前にその会社の役員であったこと
その相続開始時から相続税の申告期限まで、相続等により取得した非上場株式等の全部を持ち続けていること。
のすべての要件を満たしていることが必要。
・減額対象の上限
相続開始以前から所有していた議決権株式を含めて発行済株式総数の2/3以下を限度
・納税猶予額
①納税猶予の適用がないものとした場合の通常の相続税額
→経営承継相続人以外の相続税はこの額
②納税猶予の対象となる株式のみを相続するとした場合の相続税額
③その株式等の金額の20%に相当する金額の株式等を相続するとした場合の相続税額
②-③が経営承継相続人の納税猶予額
・5年間の事業継続等の要件
その事業承継相続人が、相続税の法定申告期限から5年の間に、代表者でなくなる、雇用の8割以上が維持できない、相続株式を継続保有していない等により、「中小企業の経営の承継の円滑化に関する法律」に基づき経済産業大臣の認定が取り消された場合等には、猶予税額の全額を納付
・上記期間経過後の納税猶予の対象となった株式等を譲渡等
その時点で、納税猶予の対象となった株式の総数等に対する譲渡株式の総数等の割合に応じた猶予税額を納付
・猶予税額の全額又は一部を納付する場合の利子税
その納付税額について相続税の法定申告期限からの利子税も併せて納付
・猶予税額の免除
経営承継相続人が死亡した場合
5年間の経営承継期間が終了した後、贈与税の増税猶予の適用に係る一括贈与をし届け出た場合
・申請による納税額の免除
5年間の経営承継期間が終了した後、以下のことが生じた場合は、申請により一部または全部が免除
経営承継相続人等がその株式等の全部を同族関係者以外に一括譲渡した
会社について破産手続開始決定または特別清算開始の命令があった
等の一定の場合
・担保提供の必要
納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供することが必要
特例非上場株式等のすべてを担保提供した場合は、その価額が納税猶予分の相続税額に満たないときでも相当するものとみなす
■適用時期
「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律案」の施行日である平成20年10月1日以後に相続により取得される非上場株式等に関する相続税に遡及し適用。
■非上場株式等に関する相続税の納税猶予制度の創設から感じること
中小企業にとっては、従来もそうでしたが、この改正により、なおさら、後継者育成、そして後継者への株式の集中が重要になって行くかと思われます。
相続税対策のために、株式を親族に分散している例をよく見かけますが、この改正を機会に見直すことも必要かと思われます。
また、要件が多岐にわたること、経済産業省への確認手続等が必要であること、長期にわたって影響があること、影響金額が多額になる可能性があること等、複雑でリスクを伴う税制と言わざるを得ず、我々専門家も十分な注意を払ってお手伝いをさせていただく必要があり、身が引き締まる思いがいたします。
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