平成21年(2009年)税制改正でこうなるNo.16。相続税の課税方法の、法定相続分課税方式から遺産取得課税への変更の先送り(個人)
前回とだいぶ間が空きましたが、平成21年(2009年)税制改正によりどこがどう変わったのか概要を確認して行く「平成21年(2009年)税制改正でこうなる」シリーズの第16回。
今回は、既に昨年から当ブログでもご紹介し、本来は改正の目玉だったはずなのが、先送りされ改正されなかった事項、相続税の課税方法の、法定相続分課税方式から遺産取得課税への変更の先送り(個人)です。
■遺産課税方式(アメリカ、イギリス等の制度)
被相続人の遺産全体を課税物件とし、遺言執行者等を納税義務者として課税する方法です。
■遺産取得課税方式(ドイツ、フランス等の制度で日本も変更を検討している制度)
相続等により遺産を取得した者を納税義務者としてその者が取得した遺産を課税物件として課税する方式です。
日本では、現行の制度のまま中小企業事業承継税制の拡充を行うと、居住や事業を承継しない相続人まで減税となってしまうため、遺産取得課税方式への変更を検討することになっていました。
■法定相続分課税方式(日本の現行制度)
相続税の総額を算出して、その後各人に按分して課税する方式です。
原則は遺産取得課税方式によりつつも、課税額の算定は、各相続人が実際に取得した分とは無関係に法定相続人の数と法定相続分によって一律に算出する、日本独特の制度です。
■法定相続分課税方式から遺産取得課税方式への変更の先送り
平成20年12月公表の自由民主党の「平成21年度税制改正大綱」によれば、以下のような理由から、法定相続分課税方式から遺産取得課税方式への変更は先送りとなりました。
相続税の税額計算についての現行の方式は、約50年の長きにわたり定着してきた制度であり、その見直しは、課税の公平性や相続のあり方に関する国民の考え方とも関連する重要な問題であり、さらに議論を深める必要があると考える。
格差の固定化防止、老後扶養の社会化の進展への対処等の観点からの負担水準の適正化についても検討を行ってきたが、税額計算方式のあり方とともに、さらに検討を進め、税制抜本改革の際に実現を図るものとする。
変更がもし行われた場合、多くの人にできるだけ同額で分けた方が相続税額は低くなる可能性が高く、そうすると従来の根強い日本の慣行であるいわゆる「本家相続」がやりにくくなることから、農家等「本家相続」を必要とされる方を中心に反対の声が上がり、改正が先送りにされたという事情もあるようです。
■上記から感じること
昨年の記事でも触れさせていただきましたが、私も、相続税の申告をお手伝いするたびに、現行の法定相続分課税方式には不自然さを感じていました。
すなわち、自分が取得した財産だけでなく他の相続人が取得したすべての財産を把握し、納税義務は各人個別にあるにもかかわらず、一緒に申告しなければ正確な税額の計算及び申告ができない、相続した財産が同じでも法定相続人の数によって税額が異なる、居住や事業の継続に配慮した特例により無関係な共同相続人の税額まで安くなる、といった点です。
そして、遺産取得課税への変更と同時に見直しが予定されていたと聞いていたのが、相続税の連帯納付義務で、未分割の場合を除き連帯納付義務は廃止される見込みだったようです。
相続税の連帯納付義務は、ある相続人が自らは適正に相続税を納付したとしても、他の相続人が納付しなかったような場合、連帯して納付義務が課せられる制度で、責任があまりにも過重であるとして、特に批判が多いところでありました。
十分な議論を行った上で、やはり不自然と言わざるを得ない現行の法定相続分課税方式は遺産取得課税方式への変更し、相続税の連帯納付義務に関してはやはり廃止すべきではないかと思われます。
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