我が人生の1枚。1979年という時代が生んだ奇跡のアルバム。ダリル・ホール&ジョン・オーツ(Daryl Hall & John Oates)「モダン・ポップ(X-STATIC)」
2009年6月10日発売の、BMG JAPAN,INC.の「Blu-spec CDTM」 25タイトルに、何と、ダリル・ホール&ジョン・オーツ(Daryl Hall & John Oates)「モダン・ポップ(X-STATIC)」(1979年)が選ばれているではありませんか。
「モダン・ポップ(X-STATIC)」ですが、私にとっては、我が人生の1枚ともいうべき完璧な1枚ですが、世間の評価は残念ながら微妙なところ。
次作以降、「モダン・ヴォイス(Voices)」(1980年)、「プライベート・アイズ(Private Eyes)」(1981年)、「H2O」(1982年)と大ヒット作連発となったため、ホール&オーツのファンからは過渡期の中途半端なアルバムと思われているし、ニュー・ウェーヴ・ファンに聞かせると「これはディスコだ」と言われたり、なかなか理解が得られないアルバムというもどかしさを感じつつ、約30年。
名誉挽回、起死回生、「モダン・ポップ(X-STATIC)」の再評価、ここで私も一肌脱ぎましょう。
■1979年11月の発売当時
発売当時、「モダン・ポップ(X-STATIC)」を絶賛していたのは、音楽評論家の小倉エージ氏とムーンライダーズ(Moonreiders)の鈴木慶一。
当時最先端のパンク/ニュー・ウェーヴをポップな形で先取りした点が評価され、1979年12月号の「ニューミュージックマガジン(NEW MUSIC MAGAZINE)」で、小倉エージ氏は95点の高得点を付け、鈴木慶一は「時代の最先端を突っ走ってきたホール&オーツ」という特集記事を執筆。
それらの記事と、ジョンが見かけた雨の日のニューヨークでラジカセをビニールに入れて歩いている人からインスパイアされ、ジョージ・ナカノ(Geroge Nakano)という日本人が撮った写真をダリルの妹のキャシー・ホール(Kathy Hall)がデザインしたという素晴らしいジャケットに魅かれ、私もすぐに「モダン・ポップ(X-STATIC)」の虜に。
■1980年2月の初来日公演
そして、1980年2月には、ダリル・ホール&ジョン・オーツ(Daryl Hall & John Oates)が初来日し、私も喜び勇んで会場へ。
ところが、「モダン・ポップ(X-STATIC)」のサウンドを期待していったら、「ライブ・タイム(Live time)」(1978年)的な普通のサウンド、「モダン・ポップ(X-STATIC)」からの曲も「ウェイト・フォー・ミー(Wait For Me)」他数曲。
「モダン・ポップ(X-STATIC)」のサウンドは、前作「赤い断層(Along The Red Ledge)」(1978年)に引き続きプロデュースを行った、デビッド・フォスター(David Foster)のマジックだったかと、かなりがっかり。
■「モダン・ポップ(X-STATIC)」のサウンドの謎
1980年3月号の「ニューミュージックマガジン(NEW MUSIC MAGAZINE)」で、小倉エージ氏が来日したホール&オーツに、ライヴを見る前に行ったらしいインタビューが掲載されてますが、それを読むとそのサウンドの謎は深まるばかり。
デビッド・フォスター(David Foster)についても、彼はいいミュージシャンだが、新しいアイディアの点では彼から教えられた点はないと答え、ベース・ラインがあたかも熱い鉄板の上を跳びはねているような感じでウィル・リー(Will Lee)みたいで良いと話を向けても、ウィル・リー(Will Lee)は(来日した)ジョン・シーグラー(John Siegler) のように弾こうとしていると答えるだけ。
■デビッド・フォスター(David Foster)&ジェイ・グレイドン(Jay Graydon)の功績
「モダン・ポップ(X-STATIC)」と双子のアルバムとも言えるのが、後にデビッド・フォスター(David Foster)とエア・プレイ(Air Play)で一世を風靡することとなるジェイ・グレイドン(Jay Graydon)がプロデュースし、デビッド・フォスター(David Foster)もキーボードで参加した、マンハッタン・トランスファー(The Manhattan Transfer)「エクステンションズ(Extensions)」(1979年10月)で、両者のサウンドはよく似ています。
「モダン・ポップ(X-STATIC)」にも、ジェイ・グレイドン(Jay Graydon)は当然、クレジット。
3曲目「空のファンタジー(All You Want Is Heaven)」は、どう見てもフォスター&グレイドン・サウンドの典型作で、フォスターのピアノの連打、しなやかにうねるグレイドンのハーモナイズド・ギターはもう最高。
ちなみに、セルフ・プロデュースとなった次作の「モダン・ヴォイス(Voices)」(1980年)が、来日公演同様、シンプルなバンド・サウンドであったことからも、デビッド・フォスター(David Foster)&ジェイ・グレイドン(Jay Graydon)の功績は否定できないところでしょう。
■ニール・ジェイソン(Neil Jason) の功績
「モダン・ポップ(X-STATIC)」にクレジットされているベーシストは3人。
来日した当時のライヴ・バンドのベーシストにして、トッド・ラングレン(Todd Rundgren)との仕事でも知られるジョン・シーグラー(John Siegler)、「ライブ・タイム(Live time)」(1978年)時のライヴ・バンドのベーシスト、ケニー・パサレリ(Kenny Passarelli)、そして、ニール・ジェイソン(Neil Jason) 。
「ライブ・タイム(Live time)」、来日公演から推定すると、チョッパー・ベース(和製英語らしく、現在はスラッピング(Slapping)と呼ぶのが一般的)、を弾くのはこの中では、ニール・ジェイソン(Neil Jason) だけ。
ニール・ジェイソン(Neil Jason)は、当時、ザ・ブレッカー・ブラザーズ(The Brecker Brothers) のベーシストで、名盤「ヘヴィー・メタル・ビバップ(Heavy Metal Be-Bop)」(1978年)、1曲目のワイルドなファンク・ロック「イースト・リヴァー(East River)」の作曲者にしてヴォーカリスト、チョッパー・ベースも弾きまくり。
You Tubeで何と見つけてしまった、歌うはニール・ジェイソン(Neil Jason)、 「イースト・リヴァー(East River)」のライヴ映像。
http://www.youtube.com/watch?v=5uvGx9EKXms
少なくとも「モダン・ポップ(X-STATIC)」の実にカッコいいチョッパー・ベース部分は、ニール・ジェイソン(Neil Jason) のプレイと思われ、その功績は大きいと思います。
3曲目「ポータブル・レディオ(Portable Radio)」、6曲目「ランニング・フロム・パラダイス(Running From Paradise)」、8曲目「ビバップ/ドロップ(Bebop/Drop)」を、私もコピーしたなぁ。
■「モダン・ポップ(X-STATIC)」はどのようにして作られたか?
来日したバンドのメンバーは、その後のボブ・ディランとの仕事でも知られるG.E.スミス(G.E..Smith:G)、当時ピーター・ガブリエル(Peter Gabriel)のバンドのメンバーでもあったジェリー・マロッタ(Jerry Marotta:D)、ジョン・シーグラー(John Siegler:B)、チャーリー・デシャン(Charlie DeChant:Sax)。
ホール&オーツがインタビューで嘘をついているとも思えませんので、ホール&オーツの直線的にリズミックでハッピーなアルバムを作りたいというコンセプトの下、バンドのメンバーを基本に、チョッパー・ベースが欲しいということでニール・ジェイソン(Neil Jason)が加わり、効果音的なシンセも欲しいということでピーター・ガブリエル(Peter Gabriel)のバンドのラリー・ファースト(Larry Fast)なども加わり、仕上げにデビッド・フォスター(David Foster)&ジェイ・グレイドン(Jay Graydon)がその存在感を示したといった具合に、出来上がったのが、「モダン・ポップ(X-STATIC)」といったところではないかと推定されます。
そして、それがジャンル分の出来ない、絶妙のブレンドな奇跡のサウンドを生んだのではないでしょうか?
前回の高橋ユキヒロ(幸宏)(Yukihiro Takahashi)「サラヴァ!(Saravah!)」でも指摘しましたが、クロス・オヴァー・ブームとパンク/ニュー・ウェーヴ・ブームが交錯したこの時代の音楽、もっと再評価されても良いと思います。
「モダン・ポップ(X-STATIC)」を語らせたら、もう大変ということで次回に続きます。
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