税務会計面からの民事再生法と「DIP型」会社更生法の比較No.6。「仮装経理による過大申告の更正の請求と還付」
■民事再生法での仮装経理による過大申告の更正の請求と還付
◇従来の民事再生法での仮装経理による過大申告の更正の請求と還付
・法人税
いわゆる「粉飾決算」により事実を仮装して経理したところに基づいて過大な法人税の申告をした場合、原則としては、確定申告書の提出期限から1年以内に限り、所轄税務署長に対して、更正の請求を行うことにより、過大に納付した税額を還付することができます。
さらに、確定申告書の提出期限から1年を超えていわゆる「粉飾決算」により事実を仮装して経理したところに基づいて過大な法人税の申告をしていた場合は、所轄税務署長の職権による減額更正は法定申告期限から5年(純損失等の金額に係るものは7年)を経過する日まで行うことができるため、必ずしも認められるとは限りませんが、上申書あるいは嘆願書を提出し所轄税務署長の職権による減額更正を促すことができます。
また、仮装経理を行った法人に対するペナルティー的な意味合いから、還付される金額は、その更正の日の属する事業年度開始の日前1年以内に開始した各事業年度の法人税の範囲内にとどめ、残高はその後5年間の各事業年度から順次繰越控除することとされ、税務署長はその法人がその後の事業年度の確定した決算において修正経理をして確定申告をするまでは、過大申告の事実を知っても減額更正をしないこともできます。
・地方税(住民税、事業税)
上記の法人税の扱いは、地方税(住民税、事業税)でも原則として同様となります。
ただし、地方税(住民税、事業税)には前1年以内に開始した各事業年度の還付の制度はありません。
・消費税
確定申告書の提出期限から1年以内に限り、所轄税務署長に対して、更正の請求でき、1年を超える場合は上申書あるいは嘆願書を提出し所轄税務署長の職権による減額更正(法定申告期限から5年の期間制限有)はほぼ同じですが、仮装経理を行った法人に対するペナルティー的な特例はなく、所轄税務署長の職権によるものの、規定上からは一括還付が可能で、修正経理も不要です。
◇平成21年(2009年)税制改正による民事再生法での仮装経理による過大申告の更正の請求と還付の改正点
・法人税
仮装経理による過大申告の減額更正税額で、その後5年間の各事業年度から順次繰越控除される部分についても、民事再生法の開始決定があった場合は、開始決定日以後1年以内に所轄税務署長に還付を請求できることとされ、平成21年4月1日以後の民事再生法の開始決定の事実について適用されます。
還付の請求を行うには、仮装経理法人税額、その計算の基礎その他一定の事項を記載した還付請求書を所轄税務署長へ提出する必要があり、請求を受けた税務署長は,請求に係る事実その他を調査した上で、仮装経理法人税額を還付するか、又は請求の理由がない旨を通知することされます。
また、従来、更正の日の属する事業年度開始の日から5年を経過する日の属する事業年度の申告期限が到来した場合や、法人が解散した場合等の、控除未済の仮装経理による過大申告の減額更正税額については、明文の規定がなく解釈により実務上還付されていましたが、今回、条文上でその旨が明らかにされました。
・地方税(住民税、事業税)
上記の法人税の改正と同様に、地方税(住民税、事業税)の改正も行われました。
・消費税
消費税については、改正はございません。
■「DIP型」を含む会社更生法での仮装経理による過大申告の更正の請求と還付
◇従来の会社更生法での仮装経理による過大申告の更正の請求と還付
法人税、地方税(住民税、事業税)、消費税ともに、民事再生法と同様の取扱いでした。
◇平成21年(2009年)税制改正による会社更生法での仮装経理による過大申告の更正の請求と還付の改正点
「民事再生法の開始決定」を「会社更生法の開始決定」と置き換えていただく必要がありますが、民事再生法と同様に、法人税、地方税(住民税、事業税)について改正が行われました。
■上記からわかること
従来の5年間の繰越控除の制度では、資金繰りの観点から事業再生に支障が生じる可能性があり、事業再生に携わる者として大変助かる改正です。
また、5年経過後及び解散した場合の還付の明文化も、租税法定主義の観点から好ましい改正だと思います。
従来は、仮装経理による過大申告の減額更正税額の還付を享受するために、事業譲渡後に解散・清算するいわゆる清算型の手続がとられることもありましたが、今後は逆に従来会社の自主再建スキームで還付額を資金繰りに見込めるケースもありえますので注意が必要です。
民事再生法と、「DIP型」を含む会社更生法では規定上は差異がありませんが、会社更生法は開始決定日で事業年度が終了するので当該決算時で修正経理・更正の請求あるいは上申を行う必要があり、民事再生法は開始決定日の属する事業年度の決算時に修正経理・更正の請求あるいは上申を行う必要がありますので、タックスプランニング上は差異があり、スキーム選択には注意が必要です。
実務上の経験上、10年近く前は、「仮装経理による過大申告の更正の請求と還付」は税務署に認めてもらうのが難しく大変苦労した思い出がありますが、近年は前例が積み重ねられた関係か、数千万円や億を超える還付も比較的スムーズに応じてくれ柔軟化したようにも見受けられます。
1年超の過去にもさかのぼることも可能で、地方税(住民税、事業税)にも適用がある点で、欠損金の繰り戻し還付よりも大きな効果を持つことも忘れてはなりません。
仮装経理による過大申告がある場合は、事業再生と債権者への衡平誠実義務の観点から、我々専門家を含め関係者は、誠実に「仮装経理による過大申告の更正の請求と還付」を行う必要があるかと思われます。
| 固定リンク
« 細野晴臣「マネー資本主義」ヴァージョンのCD化が楽しみです。アン・サリー(Ann Sally)「ヴォヤージュ(Voyage)」より「スマイル(Smile)」 | トップページ | 2009年9月9日、ようやくデジタル・リマスター盤が全世界でCDリリース。ザ・ビートルズ(The Beatles)「THE BEATLES 1」 »
「事業再生・倒産等(ややプロ向)」カテゴリの記事
- 「倒産」状態の債務者に対する債務免除に関する税務について執筆させていただいた書籍の改訂版が発売されました。リスクモンスター株式会社(編)「与信管理論〔第2版〕」(2015.07.19)
- 保証人、債権者ともに課税関係は生じないことが確認されています。「経営者保証に関するガイドライン」に基づく保証債務の整理に係る課税関係の整理に関するQ&Aについて」(2014.06.21)
- 会社更生手続以外の実務にも実務に活かせる事業再生ノウハウの最前線の調査分析。松下淳一 (編集)・事業再生研究機構 (編集) 「新・更生計画の実務と理論」(2014.05.25)
- 民事再生法の正しい理解に活用するのに最適な統計値。山本和彦、山本研(編集)「民事再生法の実証的研究」(2014.04.27)
「会社・個人の税金・会計」カテゴリの記事
- 紙幅は狭いながら濃い内容です。「〔特集〕2018よい節税悪い節税」週刊エコノミスト 2018年01月30日号(2018.02.11)
- 元旦日本経済新聞1面。「パンゲアの扉 つながる世界 溶けゆく境界 もう戻れない デジタルの翼、個を放つ 混迷の先描けるか」(2018.01.01)
- 遂にグローバルタックスプランニングにも言及。「大増税&マイナンバー時代の節税術」 (週刊ダイヤモンド 2017年 12/23 号)。(2017.12.24)
- 一番使いやすい。島田 哲宏(著)「Q&Aで解決 欠損金の繰越控除の判断とポイント」(2017.02.11)
- 特に、資産課税関係に注目です。自由民主党、「平成29年税制改正大綱」を公表。(2016.12.11)
コメント