税務会計面からの民事再生法と「DIP型」会社更生法の比較No.4。開始時の財産評定損益(資産の評価損益)の税務上の取扱い。
■民事再生法での財産評定損益(資産の評価損益)の税務上の取扱い
・開始決定時評価換え(損金経理方式)
会社等が再生債務者の場合、開始決定により資産の評価換えの必要が生じた場合の評価損は、棚卸資産、有価証券、固定資産、繰延資産に関して、損金経理を要件に、簿価と事業年度終了時のいわゆる「税務上の時価」との差額を限度に、損金算入が可能と解されます(法人税法33条2項、法人税法施行令68条、法人税基本通達9-1-5、同9-1-16)。 (→平成21年度改正により対象資産の限定は原則としてなくなりました)
実は、会社更生法と異なり、有価証券と繰延資産については、通達による明示がないのではありますが、規定ぶりから対象になると解されています。
「税務上の時価」とは、当該資産が使用収益されるものとしてその時において譲渡される場合に通常付される価額です(同9-1-3)。
しかし、評価益は、益金不算入となります(法人税法25条1項)。
・認可決定時評価換え(別表添付方式)
従来の開始決定時評価換え(損金経理方式)に加え、平成17年度改正で認可決定時評価換え(別表添付方式)の規定が新設されました。
再生計画認可の決定等があった場合に行った資産の評定の評価損益は、預金・金銭債権の評価損 (→平成21年度改正により対象資産の限定は原則としてなくなりました)、一定の含み損益が少額の資産(1,000万円に満たない資産、ただし資本等の金額が2,000万円未満の内国法人については資本等の1/2に相当する金額に満たない資産)等を除き、確定申告書に評価損益明細の記載と評価損益関係書類の添付を条件に、損金又は益金に算入されます(同33条3項、5項・25条3項、5項、法人税法施行令24条の2、同68条の2)。
認可決定時評価換え(別表添付方式)の場合は、更生手続と基本的には同様に(実は相違する部分があるのですが)、債務免除益等の範囲で期限切れ欠損金を青色欠損金等に優先して控除するとされます(法人税法59条2項、法人税法施行令118条)。
・開始決定時評価換え(損金経理方式)と認可決定時評価換え(別表添付方式)の関係
両特例は、明文の規定はありませんが選択が可能と解され(同68条2項)、開始決定時評価換え(損金経理方式)の場合は、評価益は益金算入せず、含み損益が少額の資産等も対象ですが、債務免除益等から控除する欠損金の順番は従前通り青色欠損金等を期限切れ欠損金に優先しますので、注意が必要です。
■「DIP型」を含む会社更生法での財産評定損益(資産の評価損益)の税務上の取扱い
・認可決定時評価換え(損金経理方式)
更生計画認可決定により資産の評価換えの必要が生じた場合の会社更生法の規定による評価損は、棚卸資産、有価証券、固定資産、繰延資産に関し、損金経理を要件に、損金算入が可能とされます(法人税法33条2項、法人税法施行令68条)。 (→平成21年度改正により対象資産の限定は原則としてなくなりました)
評価益は、例外的に更生会社では益金に算入されますが(法人税法25条2項)、評価益(評価損控除後)からは期限切れ欠損金(青色欠損金等以外の欠損金)をも控除できる特例が設けられています(同59条1項、法人税法施行令116条の3)。
■平成21年度税制改正
・債権も資産の評価損の対象に
平成21年4月1日以後に行う、民事再生法の開始決定時評価換え(損金経理方式)、民事再生法の認可決定時評価換え(別表添付方式)、会社更生法の認可決定時評価換え(損金経理方式)、の評価損の対象となる資産の範囲に、債権が加えられました。
以前にご紹介したように、民事再生法、会社更生法等での法人税法上計上可能な資産の評価損の対象に、債権が加わるというのは、事業再生に携わる税務会計専門家としてビック・ニュースで、「悲願達成」といっても良いかもしれません。
売上債権や営業差入保証金が多額な卸売業、建物等の賃貸借に関する敷金・差入保証金が多額な小売業や飲食業の事業再生案件においては、債権の資産の評価損の損金性がネックとなり債務免除益課税の問題から、既存会社による自主再建又は減増資によるスポンサー支援スキームがとれず、やむなく事業譲渡スキームを取らざるを得ないようなケースがよく見受けられました。
今後は、事業再生における債務免除益課税の問題の解決がかなり楽になるのではないかと期待しております。
・民事再生法の認可決定時評価換え(別表添付方式)での評価損益の計上対象となる資産の拡大
従来は資産の評価差額の最低限度は一定の資産区分ごとに1,000万円 とされており、事業再生に支障が生じる可能性がありましたが、有利子負債の額が少額(10億円未満)である企業再生である中小規模再生の場合には、資産の評価差額の最低限度を100万円ととされました。
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