税務会計面からの民事再生法と「DIP型」会社更生法の比較No.3。開始時の財産評定。
■民事再生法での開始時の財産評定
・民事再生法上の開始時の財産評定
再生債務者等は、手続開始後遅滞なく、再生債務者に属する一切の財産につき手続開始時の価額を評定する必要があります(民事再生法124条1項)。
・民事再生法上の財産評定の基準時点(基準日)
開始決定時ですが、特定の時刻で会計上締め切るのは困難であるため、実務上は開始決定日です。
・民事再生法上の財産評定の評価基準
清算を前提とした処分価額(清算価値)です。
ただし、必要な場合は、併せて、全部又は一部の財産について、事業を継続するものとして評定でき(民事再生規則56条1項)、事業譲渡の場合を想定しているとされます。
実務上は、税務上の必要性から清算価値と事業継続価値を併記したものは見かけることがありますが、事業継続価値のみによる財産評定は見かけることはないようです。
・民事再生法上の財産評定での重視される機能
①資産状態の正確な把握、②清算価値の保証の確認であるとされています。
特に、再生計画による弁済率が開始決定時に破産した場合の清算価値を上回ることを要求する清算価値保証の原則から、②清算価値の保証の確認の機能が重要なため、実務上は開始決定時に破産した場合の予想破産配当率が明示されます。
・民事再生法上の財産評定の作成者と手続
再生債務者等は、評定完了時に、直ちに開始時の財産目録及び貸借対照表を作成し、裁判所に提出することが必要です(民事再生法124条2項)。
財産の評価方法その他の会計方針は注記が必要です(民事再生規則56条2項)。
・民事再生法上の財産評定の情報開示
民事再生法による、裁判所への提出又は裁判所作成の文書等につき、利害関係人は、閲覧・謄写等を請求できます(民事再生法16条)。
開始時の貸借対照表及び財産目録等については、再生債権者は再生債務者の主たる営業所等でも閲覧できます(民事再生規則64条)。
■「DIP型」を含む会社更生法での開始時の財産評定
・会社更生法上の開始時の財産評定
管財人は、更生手続開始後遅滞なく、更生会社に属する一切の財産につき、その価額を評定する必要があります(会社更生法83条1項)。
・会社更生法上の開始時の財産評定の評価基準
開始時の時価によるものとされます(会社更生法83条2項)。
このいわゆる「83条時価」には定義既定がなく概念が明確ではありませんが、実務上は、日本公認会計士協会から公表された「財産の価額の評定等に関するガイドライン(中間報告)」(平成16年5月17日)に各資産別に示された評価方法等を参考にします。
・会社更生法上の開始時の財産評定での重視される機能
①資産状態の正確な把握、②会計の具体的基礎の付与、③利害関係人の権利範囲の明確化であるとされます。
会社更生法では、認可決定時の貸借対照表作成時に開始決定時に時価で評定した財産には時価を取得価額とみなす「みなし取得価額」の規定があるため、、②会計の具体的基礎の付与という機能も重要となります(会社更生法施行規則1条1項、2項)。
また、会社更生法では、担保権も手続に服し、担保目的の開始時の時価評価で、担保される更生担保権と担保されない更生債権とが区分され、一般に、前者はほぼ全額弁済、後者は大幅カットと、債権者の権利範囲ひいては更生計画を決定的に左右するため、③利害関係人の権利範囲の明確化という機能も大変重要となります。
なお、民事再生法上で重視された清算価値の保証の確認の機能がありませんが、実務上は、更生計画認可時前の時点での清算処分価額評価と予想破産配当率の明示がなされ、やはり清算価値保証の原則が重視されています(開始時ではなく更生計画認可時前の時点である相違はありますが)。
・会社更生法上の開始時の財産評定の作成者と手続
管財人は、評定完了時に、直ちに開始時の貸借対照表及び財産目録を作成し、裁判所に提出することが必要です(会社更生法83条3項)。
裁判所は、管財人に対し、利害関係人の閲覧の必要性が高いと認める評定の基礎資料や評価方法等記載の書面を提出させることができます(会社更生規則23条)。
・会社更生法上の財産評定の情報開示
会社更生法による、裁判所への提出又は裁判所作成の文書等につき、利害関係人は、閲覧・謄写等を請求できます(会社更生法11条)。
手続開始時の貸借対照表及び財産目録等につき、更生債権者等又は株主等は、更生会社の主たる営業所等でも閲覧できます(会社更生規則24条)。
| 固定リンク
« 思わず引き込まれてしまった、愛される男、加藤ひさしとザ・コレクターズ(THE COLLECTORS)の物語No.2。「THE GREATEST TRACKS」(M) | トップページ | 鈴木惣一朗プロデュースのララバイ・カヴァー集が今度はバート・バカラック(Burt Bacharach)に挑戦。「雪と花の子守唄~バカラック・ララバイ集~」(M) »
「事業再生・倒産等(ややプロ向)」カテゴリの記事
- 「倒産」状態の債務者に対する債務免除に関する税務について執筆させていただいた書籍の改訂版が発売されました。リスクモンスター株式会社(編)「与信管理論〔第2版〕」(2015.07.19)
- 保証人、債権者ともに課税関係は生じないことが確認されています。「経営者保証に関するガイドライン」に基づく保証債務の整理に係る課税関係の整理に関するQ&Aについて」(2014.06.21)
- 会社更生手続以外の実務にも実務に活かせる事業再生ノウハウの最前線の調査分析。松下淳一 (編集)・事業再生研究機構 (編集) 「新・更生計画の実務と理論」(2014.05.25)
- 民事再生法の正しい理解に活用するのに最適な統計値。山本和彦、山本研(編集)「民事再生法の実証的研究」(2014.04.27)
「会社・個人の税金・会計」カテゴリの記事
- 紙幅は狭いながら濃い内容です。「〔特集〕2018よい節税悪い節税」週刊エコノミスト 2018年01月30日号(2018.02.11)
- 元旦日本経済新聞1面。「パンゲアの扉 つながる世界 溶けゆく境界 もう戻れない デジタルの翼、個を放つ 混迷の先描けるか」(2018.01.01)
- 遂にグローバルタックスプランニングにも言及。「大増税&マイナンバー時代の節税術」 (週刊ダイヤモンド 2017年 12/23 号)。(2017.12.24)
- 一番使いやすい。島田 哲宏(著)「Q&Aで解決 欠損金の繰越控除の判断とポイント」(2017.02.11)
- 特に、資産課税関係に注目です。自由民主党、「平成29年税制改正大綱」を公表。(2016.12.11)
コメント