税務会計面からの民事再生法と「DIP型」会社更生法の比較No.2。欠損金の繰戻し還付
■欠損金の繰戻し還付
青色申告をしている会社が、税務上の欠損金を出した場合、翌期以降に繰り越して翌期以降7年間の所得から繰越控除することができ、これを欠損金の繰越控除といいます。
青色申告をしている会社が、税務上の欠損金を出した場合に、翌期以降に繰り越さないで、前年度の所得と通算して、前年度の法人税を返してもらうことを、欠損金の繰戻し還付といいます。
ただし、法人税のみに認められており、住民税及び事業税には認められていません。
欠損金の繰り戻し還付は、原則として、平成22年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金については、適用が停止されています。
■例外として欠損金の繰戻し還付の適用が可能な場合
・資本金が1億円以下等の一定の条件を満たす中小企業者の設立事業年度から5年間の各事業年度
・解散(適格合併による解散を除きますが、破産手続開始決定による解散は含まれます)、事業の全部譲渡、会社更生法・民事再生手続開始等の事実があった内国法人の当該事実が生じた日前1年以内に終了したいずれかの事業年度又は同日の属する事業年度
には、適用停止措置の例外として欠損金の繰戻し還付の適用が可能です。
また、平成21年(2009年)税制改正で、資本金が1億円以下等の一定の条件を満たす中小法人等の平成21年2月1日以後に終了する各事業年度において生じた欠損金額については、欠損金の繰り戻し還付の適用が可能となる改正が予定されています。
■民事再生法での欠損金の繰戻し還付
民事再生手続が開始決定となると、開始決定日で事業年度は終了せず、法人税法のみなし事業年度の適用もなく、青色申告をしている会社であれば、開始決定日の属する通常の事業年度において生じた欠損金で前事業年度の法人税を取り戻せるだけでなく、前事業年度の欠損金で前々事業年度の法人税等を取り戻せる場合があるということになります。
特に後者については、平成21年(2009年)税制改正で中小法人等に適用停止が解除される通常の欠損金の繰戻し還付では不可能なパターンであり、大きなメリットと言えるでしょう。
民事再生手続による資産の評価損は、法人税法上特別の規定があり、損金経理を用件とした開始決定日の属する事業年度で損金算入できる方法と、別表添付を要件とした再生計画の認可決定日の属する事業年度で損金算入できる方法とが選択できます。
開始決定日で決算をせず通常の事業年度で決算をすれば良く、民事再生手続自体も例えば東京地裁の標準スケジュールは認可決定まで約6ヶ月と短期のため、民事再生手続では欠損金の繰り戻し還付が利用可能なケースは比較的多いと思われます。
実務上は、従前の会社による自主再建の場合は青色欠損金の繰越控除を選択しても効果にあまり差がないことも多いため行われることは少なく、事業譲渡し従前の会社を清算するスキームで、欠損金の繰り戻し還付を利用するケースを多く見かけます。
ただし、前事業年度の欠損金で前々事業年度の法人税等を取り戻せる場合を見逃しているケースも見かけますので十分に注意が必要です。
また、開始決定日以後1年以内に還付請求を行う必要がある点にも注意が必要です。
■「DIP型」を含む会社更生法での欠損金の繰戻し還付
会社更生手続が開始決定となると開始決定日を終了の日とする事業年度の法人税の確定申告が必要となりますが、開始決定日を終了の日とする事業年度の欠損金で前事業年度の法人税を取り戻せるだけでなく、前事業年度の欠損金で前々事業年度のの法人税等を取り戻せる場合があるということになります。
会社更生手続による資産の評価損は、法人税法上特別の規定がありますが、開始決定日ではなく更生計画の認可決定日の属する事業年度に損金算入となる点が、平成17年税制改正で明確化されています。
「DIP型」を含む会社更生法手続では、開始決定日を終了の日とする事業年度では、会社更生手続による資産の評価損を損金算入することはできないため、民事再生手続と比較して欠損金の繰戻し還付が利用可能なケースは限られてくると思われます。
前事業年度の欠損金で前々事業年度の法人税等を取り戻せる場合を見逃すおそれがある点、開始決定日以後1年以内に還付請求を行う必要がある点は、民事再生手続と同様です。
規定上はほとんど同じであるにも関わらず、事業年度と資産の評価損の損金算入時期の相違により、実は異なる民事再生手続と「DIP型」を含む会社更生法手続の欠損金の繰戻し還付、スキーム選択は慎重に。
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