企業再生関係税制等に驚きの一文!「評価損の対象となる資産の範囲に債権を追加する。」自由民主党平成21年度税制改正大綱(2009年度与党税制改正大綱)
本日(平成20年12月12日)、自由民主党平成21年度税制改正大綱(2009年度与党税制改正大綱)が発表されました。
http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2008/pdf/seisaku-032a.pdf
中小法人等に対する軽減税率の時限的引き下げ(22%→18%)、中小法人等の欠損金の繰戻し還付の復活、個人及び法人の平成21年及び平成22年度中に取得した土地等の長期譲渡所得の1,000万円控除制度の創設、住宅ローン控除の拡充、中小企業の事業承継時の取引相場のない株式の80%相当額の納税の猶予、少額の株式等投資のための非課税措置の創設(年間100万円を上限に最長5年間、総額で500万円まで配当と譲渡益を非課税)等、事前に報道されていた改正は期待通り織り込まれている模様。
私が驚いたのは、58ページの企業再生関係税制です。
特に、「評価損の対象となる資産の範囲に債権を追加する。」という一文には、思わず「おお!」と声を上げてしまいました。
■企業再生関係税制(自由民主党平成21年度税制改正大綱P58より)
12 企業再生関係税制等について、次のとおり見直しを行う。
(1)企業再生関係税制の拡充
① 資産の評価損益の計上及び青色欠損金等以外の繰越欠損金の優先控除の対象となる一定の債務処理に関する計画に係る要件について、次のとおり見直しを行う。
イ 株式会社地域力再生機構が関与した私的整理を適用対象に加える。
(筆者注)平成20年8月内閣府「平成21年度税制改正要望」に応じたもののようです。
ロ 2以上の金融機関等の債務免除要件について、一方の債務免除の当事者に地方公共団体を追加する。
(筆者注)平成20年8月経済産業省「平成21年度税制改正に関する経済産業省意見」に応じたもののようです。
ハ 債務免除要件について、自己に対する債権の現物出資を受ける場合についても債務免除があった場合と同様の取扱いとする。
ニ 専門家関与要件について、中小規模再生の場合には、関与すべき専門家の人数の最低限度を2人とする。
(筆者注) 私的整理ガイドライン研究会や中小企業庁等に対する国税庁の文書回答事例により、従来は3人との解釈が示されていました。
② 評価益の計上対象となる資産について、中小規模再生の場合には、資産の評価差額の最低限度を100万円とする。
(筆者注)従来は資産の評価差額の最低限度は一定の資産区分ごとに1,000万円 とされており、事業再生に支障が生じる可能性がありました。
(注)中小規模再生とは、有利子負債の額が少額(10億円未満)である企業再生をいう。
(2)評価損の計上対象となる資産の範囲に債権を追加する。
(筆者注)従来は評価損の計上対象となる資産から、預貯金等(預金・貯金・貸付金・売掛金その他の債権)が除かれていました。貸付金・売掛金その他の債権が評価損の計上対象となる資産の範囲に追加されるという意味かと思われます。
(3)仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴い減額された法人税額について、一定の企業再生事由が生じた場合には、繰越控除制度の適用を終了し、控除未済額を還付することとする。
(筆者注)従来は企業再生事由が生じた場合といえども、仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴い減額された法人税額については、仮装経理を行った法人に対するペナルティー的な意味合いから、更正の日の属する事業年度開始の日前1年以内に開始した各事業年度法人税額の範囲で還付するにとどめ、残高はその後5年間の法人税額から順次控除するとされており、資金繰りの観点から事業再生に支障が生じる可能性がありました。
■上記の企業再生関係税制の見直し案について感じること
民事再生法、会社更生法等での法人税法上計上可能な資産の評価損の対象に、債権が加わるというのは、事業再生に携わる税務会計専門家としてビック・ニュースで、「悲願達成」といっても良いかもしれません。
売上債権や営業差入保証金が多額な卸売業、建物等の賃貸借に関する敷金・差入保証金が多額な小売業や飲食業の事業再生案件においては、債権の資産の評価損の損金性がネックとなり債務免除益課税の問題から、既存会社による自主再建又は減増資によるスポンサー支援スキームがとれず、やむなく事業譲渡スキームを取らざるを得ないようなケースがよく見受けられました。
今後は、事業再生における債務免除益課税の問題の解決がかなり楽になるのではないかと期待しております。
適用時期については、当然のこととしてまだ未定ですが、平成17年税制改正での企業再生関係税制の大改正は、平成17年4月1日以後に認可決定等の事実が生じる場合について適用されましたので、それに準ずる運用が考えられます。
そうすると、現在進行中の事業再生案件についても影響がある可能性がありますので、今後の展開に大いに注目です。
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