ケンさんには悪いけど、ケンさんの方が面白い。横山剣「クレイジーケンズ マイ・スタンダード」(M)
ケンさんの波瀾万丈、あまりにもタフな今までの足取りは、本人も多くを語り、周囲も大いに調査し、語りつくされていた感もありました。
例えば、昨年11月に増補改訂版が出た、「クレイジーケンの夜のエアポケット 増補改訂版」(2007年11月)。
週刊情報誌「ぴあ」01年1月号~03年9月号に連載された、横山剣のエッセイ。
「夜のエア・ポケット」とは、時空の隙間に、あるいは異常の中に、あるいは官能の中に、スコーンと落っことされるような妙な気分」とのことらしく、ケンさんらしい豊かな感受性とそれを的確に置き換える言語感覚が実に冴えたネーミング。
周囲が関わったものでは、クレイジーケンバンド・川勝正幸・下井草秀共著の「CKBD―Crazy Ken Band Dictionary」(2004年7月)。
クレイジーケンバンドも共著者ですが、実体は、私も絶大な信頼を置くポップ・カルチャーの紹介者、文化デリックの二人を中心としたクレイジーケンバンドのガイド・ブック。
この本を片手に、クレイジーケンバンドの楽曲を聴くと楽しさ倍増。
「クレイジーケンズ マイ・スタンダード」を読んで感じたことは、まず、ケンさんはやっぱり本物の「不良(ワル)」だ(だった)ということ。
私は、TBS「情熱大陸」に出た時の印象から、「不良(ワル)」を気取った実は人の良い人という風に思っていましたが、喧嘩で警察にお世話になったり、未成年の頃から怪しげな商売をしていたり、平平凡凡と過ごしてきた私などからすると、かなりの本物。「不良(ワル)」の経験がその音楽界最強ともいうべきタフさに繋がっているのかもしれませんが。
次に、ビジネス感覚に優れていること。
未成年の頃から洋服屋をやったり、音楽活動のかたわらにバイク屋や洋服屋や雑貨屋を経営したり、ダブルジョイ・レコード有限会社の代表取締役歌手(笑)として手腕を奮ったり、ベンチャー・スピリットが旺盛。
そして、最も驚くのはその感受性の鋭さ。
ケンさんの作る楽曲の多くが、子供の頃に感じた空気感に基づいて作られていることに驚かされます。幼少時代に複雑な家族関係から転々とした、横浜、日吉、青山といった土地の原風景、ケンさんに大きな影響を与えたと思われる実父が持っていた「円楽のプレイボーイ講座12章」等の珍しいレコード、実父に連れられ旅行したアメリカ、ハワイの思い出が、実に鮮明に語られています。
ところで、Amazonのカスタマーレビューで知りましたが、本書の刊行直前に、達人インタビュアー吉田豪氏が雑誌「POPEYE」2007年9月号で横山剣にインタビューしており、これが裏マイ・スタンダードといった内容で面白い。
おそらく、小学館の編集者の判断で、「クレイジーケンズ マイ・スタンダード」では削除・修正されたのではないかと思われる、なぜ小学生の頃に「キチガイ田寺(ケンさんの旧姓)」と呼ばれていたか、なぜアルコールが飲めなくなったのかといったエピソードがストレートに語られています。
ケンさんのかなりのファンでないと、ドン引きしてしまうかもしれませんが。
吉田豪氏の綿密な調査とストレートに迫るアプローチのインタビューは、抜群に面白く、「バンドライフ―バンドマン20人の音楽人生劇場独白インタビュー集」(2008年4月)も必見。
横山剣は含まれていませんが、森若香織、氏神一番、関口誠人、ダイヤモンドユカイ、水戸華之介、中山加奈子、阿部義晴、いまみちともたか、BAKI、石川浩司、サンプラザ中野、サエキけんぞう、NAOKI、KERA、仲野茂、MAGUMI、KENZI、イノウエアツシ、DYNAMITE TOMMY、大槻ケンジという面々の栄光と苦悩の実像に迫ります。
ケンさんを語りだすと、面白すぎてきりがなくなりますので、「ZERO」については次回にさせていただきます。
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