非上場株式の価格算定の議論華やかかりし頃。「株式等鑑定評価マニュアルの解説」別冊商事法務No.161
当ブログでもご紹介したように、2008年7月17日付日本経済新聞によると、中小企業庁は、非上場株式の価格算定の指針を、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本弁護士連合会の代表らでつくる中小企業庁長官の私的研究会「非上場株式の評価のあり方に関する委員会」がまとめる形で、年内にも作成するとのこと。
現在は廃刊の「株式等鑑定評価マニュアルの解説」別冊商事法務No.161(1994年)に掲載されている座談会を読むとよくわかりますが、日本公認会計士協会経営研究調査会から1993年11月9日に「株式等鑑定評価マニュアル」が公表された頃、非上場株式の価格算定についての盛んな議論が行われています。
■「株式等鑑定評価マニュアルの解説」別冊商事法務No.161(1994年)
何と言っても、「株式等鑑定評価マニュアル」作成に携わった公認会計士と元裁判官、大学教授、国税庁職員、弁護士、証券業界の実務家の座談会が面白く参考になります。
メンバーは、当時の肩書でご紹介すると、元木伸東洋大学教授、関俊彦東北大学法学部教授、品川芳宣国税庁徴税部管理課長、高村隆司弁護士、長谷川博和証券アナリスト(日本合同ファイナンス)、磯部洋弁護士、樫谷隆夫・高橋義雄・中尾知明・名古屋信夫・長谷川佐喜男・吉田博文各公認会計士。
「株式等鑑定評価マニュアル」に沿って、公認会計士だけでなく、各専門家の声を交えながら、本書も指摘しているように「実務上きわめて問題の多い仕事」である非上場株式の価格算定についての本音が語られています。
最近の企業価値評価(バリュエーション)の理論にお詳しい方からすると、当時のDCF法に関する記述等は陳腐に感じられるかもしれませんが、DCF法のグローバル・スタンダードともいうべきバイブル、マッキンゼー・アンド・カンパニー他(著) 「企業価値評価 」の初版である伊藤邦雄監訳「企業評価と戦略経営」が出版されたのが1993年であることを考えると止むを得ないと思われます。
■「非公開株式の評価鑑定事例」別冊商事法務101(1988年)
非上場株式の価格算定についての議論の座談会ととしては、遡ることさらに6年前の、「非公開株式の評価鑑定事例」別冊商事法務101(1988年)に掲載されている座談会も面白く参考になります。
メンバーは、当時の肩書でご紹介すると、河本一郎神戸学院大学教授、江頭憲治郎東京大学教授、生田治郎岡山地方裁判所判事、中祖博司弁護士、川口勉公認会計士、新井喜太郎株式会社QUICK取締役調査部長。
資料編として、非上場株式の価格算定についての判例が6つほど紹介されているのも参考になります。
なお、この時代になると、収益還元法だけで、DCF法という言葉も出てきません。
■中小企業庁の非上場株式の価格算定の指針の作成に伴う議論の活発化の期待
昔の話ばかりしてと思われた方も多いかと思われますが、確かにファイナンス理論はM&Aの実務上定着してきていますが、法的紛争に関する非上場株式の価格算定の議論は、上記の当時と実はそんなに変わっていないのが現状ではないかとも思われます。
中小企業庁の非上場株式の価格算定の指針の作成に伴い、また活発な議論が行われることを期待したいと思います。
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