平成20年(2008年)税制改正でこうなるNo.20。特定目的会社及び投資法人の課税の特例の改正(法人税等)
今回は、不動産証券化等に関係する、特定目的会社及び投資法人の課税の特例の改正です。
金融商品取引法の施行等に伴い、特定目的会社及び投資法人における支払配当の損金算入の要件における「適格機関投資家」につき
・「機関投資家」という用語に改められるとともに
・その範囲の見直し
が行われました。
また、投資法人の支払配当の損金算入の要件における同族会社に該当しないことの判定につき、現実に要件を満たせなくなるリスクが高まっていたため、
・法人税法上の判定と同様の3株主グループによる判定から1株主グループによる判定への改正
が行われました。
■従来の制度
・特定目的会社における支払配当の損金算入
「資産の流動化に関する法律」(「資産流動化法」)に規定する特定目的会社(いわゆるTMK)のうち、次のイの要件を満たすものが支払う利益の配当の額(みなし配当を含む)で、次のロに掲げる要件を満たす適用事業年度に係るものは、当該適用事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されます。
イ 次に掲げるすべての要件
(1)資産流動化法の特定目的会社名簿に登載されているものであること。
(2)次のいずれかに該当するものであること。
ⅰいわゆる公募で発行した特定社債券の発行価額の総額が1億円以上であるもの
ⅱ発行をした特定社債券が適格機関投資家のみによって引き受けられたもの
ⅲ発行をした優先出資証券が50人以上の者によって引き受けられたもの
ⅳ発行をした優先出資証券が適格機関投資家のみによって引き受けられたもの
(3)発行をした特定社債券等に係る募集が主として国内で行われるものであること。
(4)その他一定の要件
ロ 次に掲げるすべての要件
(1)資産流動化法上の資産流動化業務等を資産流動化計画に従って行っていること。
(2)資産流動化法第195条第1項の他の業務を営んでいる事実がないこと。
(3)資産流動化法第200条第1項の特定資産を信託財産として信託していること又は当該特定資産の管理及び処分に係る業務を他の者に委託していること。
(4)事業年度終了の時において法人税法上の同族会社に該当するもの(上記イ(2)ⅰ又はⅱに該当するものを除く。)でないこと。
(5)利益の配当の支払額が一定の配当可能所得額の90%相当額を超えていること。
(6)資産流動化法第195条第2項に規定する無限責任社員となっていないこと。
(7)その他一定の要件
・投資法人における支払配当の損金算入
投資信託及び投資法人に関する法律(「投資法人法」)に規定する、次のイの要件を満たす投資法人(J-REITで用いられるヴィークルです。)が支払う金銭の分配のうち、利益の配当等の額で次のロに掲げる要件を満たす適用事業年度に係るものは、当該適用事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されます。
イ 次に掲げるすべての要件
(1) 投資法人法第187条の登録を受けているものであること。
(2) 次のいずれかに該当するものであること。
ⅰ設立時に公募で発行した投資口の発行価額の総額が1億円以上であるもの
ⅱ事業年度終了の時において、その発行済投資口が50人以上の者によって所有されているもの又は適格機関投資家(政令で定める法人を含む。)のみによって所有されているもの
(3) 発行をした投資口に係る募集が主として国内において行われるものであること。
(4) その他一定の要件
ロ 次に掲げるすべての要件
(1) 投資法人法第63条の規定に違反している事実がないこと。
(2) 資産の運用業務を投資法人法上の投資信託委託業者に委託していること。
(3) 資産の保管業務を投資法人法上の一定の法人に委託していること。
(4) 事業年度終了の時において法人税法上の同族会社に該当していないこと。
(5) 配当等の額の支払額が一定の配当可能所得の90%相当額を超えていること。
(6) 他の法人の発行済株式等の50%以上を有していないこと。
(7) その他一定の要件
■改正の概要
・特定目的会社及び投資法人の課税の特例における「適格機関投資家」
金融商品取引法の施行に伴い、特定目的会社及び投資法人における支払配当の損金算入の要件における「適格機関投資家」につき、「機関投資家」という用語に改められるとともにその範囲の見直しが行われました。
(1) 信用協同組合について、金融商品取引法に基づき金融庁長官に届出を行った者とされました。
(2) 共済水産業協同組合連合会が加えられました。
(3) 企業年金基金のうち直近事業年度の年金経理に係る貸借対照表における資産から負債を控除した金額が100億円以上のものが加えられました。
(4) 信託会社(管理型信託会社を除く。)又は外国信託会社(管理型外国信託会社を除く。)のうち、金融商品取引法に基づき金融庁長官に届出を行った者が加えられました。
(5) 金融商品取引法に基づき有価証券の残高が10億円以上であるものとして金融庁長官に届出を行った者のうち、厚生年金基金、企業年金連合会又は企業年金基金に類する外国の者のうち次のすべての要件を満たすものによりその発行済株式の全部を保有されている内国法人を加えられました。
① 外国の法令に基づいて組織されていること。
② 外国において主として退職年金、退職手当その他これらに類する報酬を管理し、又は給付することを目的として運営されること。
(6) 金融商品取引法に基づき有価証券の残高が10億円以上であるものとして金融庁長官に届出を行った者のうち、外国の政府、外国の政府機関、外国の地方公共団体、外国の中央銀行及び日本国が加盟している国際機関のうち金融庁長官に届出を行った者によりその発行済株式の全部を保有されている内国法人が加えられました。
(7) 外国の法令に準拠して外国において第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う法人の資本金の額等の最低限度を5,000万円(現行1億円)とされました。
(8) 外国の法令に準拠して外国において信託業(管理型信託業を除く。)を行う法人で資本金の額等が1億円以上であるものとして、金融商品取引法に基づき金融庁長官に届出を行った者を加えられました。
・ 投資法人の支払配当の損金算入の要件における同族会社に該当しないことの判定
同族会社に該当しないことの判定を、3株主グループによる判定から1株主グループによる判定とされました。この改正は、投資法人だけで特定目的会社には適用されませんのでご注意ください。
■適用時期
この改正は、特定目的会社及び投資法人の平成20年4月1日以後に終了する事業年度分の法人税等について適用されます。
■特定目的会社及び投資法人の課税の特例の改正から感じること
・改正の趣旨
この改正は、特定目的会社(TMK)及び投資法人の、法人等の利益に対して課税せず、その構成員の所得に対して課税する、いわゆるパススルー課税(構成員課税)を、実態に即して使いやすいものにしようとする趣旨のものと思われます。
投資法人の支払配当の損金算入の要件における同族会社に該当しないことの判定についての改正は、昨年、FCレジデンシャル投資法人が買占めにより同族会社に該当しそうになり、パススルー課税(構成員課税)の要件が満たせなくなりそうになる事態が生じたことによるものと思われます。
・抜本的な改正の必要性
特定目的会社(TMK)及び投資法人について、改正後の現行税制上でも、税務上の課税所得が会計上の利益よりも大きくなると、配当等の支払額が一定の配当可能所得の90%相当額を超えていることという要件が満たせなくなり、特定目的会社(TMK)及び投資法人が課税され、パススルー課税(構成員課税)が実現できない事態が容易に起こりえます。
例えば、会計上で減損損失を認識する場合などが挙げられます。
市場の効率化を促す完全なパススルー課税(構成員課税)を実現するためには、抜本的な改正が必要かと思われます。
実務上感じるのは、少なくとも、連結子会社の特定目的会社(TMK)等で問題になりますが、特定目的会社(TMK)からの受取配当金の益金算入を単純に不能にするのではなく、特定目的会社(TMK)で支払配当金の損金算入をした場合は、その場合の特定目的会社(TMK)からの受取配当金の益金算入を不能とするように、早期に改正する必要があるのではないかという点です。
二重課税が生じうる税制は、租税負担の公平性の観点から問題があると言わざるを得ないのではないでしょうか。
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