平成20年(2008年)税制改正でこうなるNo.13。エンジェル税制の拡充(所得税・住民税)
今回は、エンジェル税制の拡充です。
これからのわが国の経済を支えるベンチャー企業の育成を支援する観点から、起業期のベンチャー企業に対する資金を広く呼び込むため、
一定のベンチャー企業に出資した金額について、
1,000万円を限度として寄附金控除を適用する制度の創設
が行われ、エンジェル税制が大幅に拡充されました。
■従来の制度
・エンジェル税制
ベンチャー企業の世界では、創業間もない企業に対し資金を供給する個人投資家のことをエンジェル投資家と呼びますが、エンジェル投資家を優遇し、ベンチャー企業を育成しわが国経済を活性化しようとする税制が、エンジェル税制です。
・対象となるベンチヤー企業
租税特別措置法37条の13に規定された「特定中小会社」である、一定の要件を満たすベンチャー企業。
・投資時点での投資額のその年の株式譲渡益からの控除
平成15年4月1日以降払込により、対象となる特定株式を取得し年度末まで保有している個人は、その払い込みと同一年分の株式譲渡益からその特定株式投資額を控除が可能。
・売却時点で利益が発生した場合の株式譲渡益の1/2圧縮
平成12年4月1日から平成21年3月31日までに一定の払い込みにより取得した特定株式を売却し、次のいずれかに該当する場合は株式譲渡益を1/2に圧縮して課税
公開前の売却
所有期間3年超の特定株式を平成16年4月1日以降に売却
公開後の売却
所有期間3年超の特定株式を公開の日以降3年以内に売却
・売却時点で損失が発生した場合の損失の翌年以降3年間の繰越控除
特定株式の公開前の譲渡損は、同一年内の株式譲渡益と相殺しますが、相殺しきれなかった損失の金額は翌年以降3年間の繰越控除が可能。
・株式価値喪失時点で損失が発生した場合の損失の翌年以降3年間の繰越控除
特定株式を取得した会社が、公開前に解散し清算結了等に至り生じた株式価値喪失損失は、株式譲渡損失とみなし、同一年内の株式譲渡益と相殺しますが、相殺しきれなかった損失の金額は翌年以降3年間の繰越控除が可能。
■平成20年改正の内容
・投資時点での所得控除(寄附金控除)の創設
所得控除(寄附金控除)の対象となるベンチャー企業は、
設立1年目の中小企業新事業活動促進法に規定する「特定新規中小企業者」である株式会社
設立2、3年目の、設立以来の営業キャッシュ・フローが赤字である「特定新規中小企業者」である株式会社
で一定の経済産業大臣の確認要件を満たす株式会社に限定されます。
要件を満たす株式会社に出資した場合、
総所得金額×40%と1,000万円のいずれか低い金額を限度して
寄附金控除の規定を利用し、(出資額-5千円)をその年の総所得金額から控除。
従来からの、投資時点での投資額のその年の株式譲渡益からの控除の規定との併用はできませんが、他に株式譲渡益がない方でも、創設された投資時点での所得控除(寄附金控除)の特例は利用することができます。
なお、投資時点でのエンジェル税制は、所得税のみの制度であり、住民税には適用がありません。売却時点や株式価値喪失時点のエンジェル税制については、所得税及び住民税の両方に適用があります。
投資時点での所得控除(寄附金控除)の創設は、平成20年4月1日以後の特定株式取得について適用されます。
・売却時点で利益が発生した場合の株式譲渡益の1/2圧縮の廃止
平成21年3月31日をもって廃止されます。
■エンジェル税制の拡充について感じること
従来のエンジェル税制の利用は期待に反して低迷しており、経済産業省によれば、2006年度の制度利用による投資額は13億円程度で、前年度に比べて46%も減少していたようです。
投資時点の税制上のメリットが小さいことが主原因ではないかということで、今回の投資時点での所得控除(寄附金控除)の創設という画期的な制度ができたようです。
富裕層の投資家にとっては、大型の節税が可能になる改正であり、今後は利用が活発になるのは間違いないかと思われます。
ただし、投資家サイドとしても、節税額を含めたリターンが投資額を本当に上回るかに留意する必要があり、節税に夢中になるあまり冷静な投資判断を失わないように気をつける必要があるかと思います。
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