壮大なるアメリカ音楽絵巻、今。スフィアン・スティーヴンス (Sufjan Stevens)「イリノイ(ILLINOISE)」(M)
1975年生れ、ミシガン州デトロイト出身のシンガー・ソングライター、スフィアン・スティーヴンス (Sufjan Stevens)は、今、最も音楽通に注目されるアーティスト。
左写真の「トリビュート・トゥ・ジョニ・ミッチェル(A Tribute to Joni Mitchell)」(2007年)では、ビョーク、プリンス、エルヴィス・コステロ等の大物を抑え、ジョニ・ミッチェル「コート・アンド・スパーク」から「パリの自由人(Free Man in Paris)」をカヴァーし、栄えある1曲目に。
ボブ・ディラン伝記映画のサントラ「アイム・ノット・ゼア」(2007年)でも、Disc2の3曲目ながら、ボブ・ディラン「オー・マーシー」から「鐘を鳴らせ(Ring Them Bells )」をカヴァーし、抜群の存在感。
セイント・ヴィンセント(St. Vincent )ことアニー・クラーク(ANNIE CLARK)らを従えての、2008年1月の初来日公演も、大好評(ライヴ見るのを放棄している私もさすがに見たかったなぁ)。
スフィアン・スティーヴンス (Sufjan Stevens)で、まず驚かされるのがその創作意欲。
アメリカ50州のそれぞれのためにアルバムを作るという壮大なプロジェクト「THE 50 STATES」にも驚かされますが、本作も全22曲74分、極めつけは時に何行にもわたる曲名の長さと歌詩自体の長さ。日本人としては、P-VINE RECORDSからの対訳付の日本盤をぜひ入手したいところ(今のところアルバム全7枚中3枚が日本盤発売済)。
おまけに、「イリノイ(ILLINOISE)」のアルバム1枚分のアウト・テイク集、「ジ・アヴァランチ(The Avalanche: Outtakes & Extras from the Illinois Album)」(2006年)まで発表。
「THE 50 STATES」を実行するならば、一生涯で60枚以上のオリジナルアルバムを発表したとされる創作意欲の塊、フランク・ザッパ(Frank Zappa)を凌ぐ存在になるのは間違いないのでは。
次に、ロック色の薄さ。
ミュージック・マガジン2008年3月号に掲載された渡辺亨氏による来日時のインタヴューは、スフィアン・スティーヴンス (Sufjan Stevens)の謎に迫るファン必読の貴重な資料ですが、自身の音楽について次のように語っています。
僕の場合は、子供の頃からポップ・ミュージックやロックを聴いてきたけど、その一方でカレッジでオーボエを学び、スタンダードやクラシックにも親しんできた。
~途中略~
僕の音楽は、三つの音楽の伝統を汲んだものと思っている。まずひとつは、フォークのストーリーテラーの伝統。ふたつめは、大衆に向けて作られてきたポピュラー音楽の伝統。そしてもうひとつは、クラシックの伝統だ。
~途中略~
アメリカ音楽の歴史は、20~40年代にブルースやジャズによって大きな転換期を迎え、現在も黒人音楽が、アメリカ音楽のもっとも重要な要素になっている。僕の音楽には黒人音楽の要素はあまりミックスされていないけれど、それでも少しは含まれている。アメリカ音楽だからね。
すなわち、ロック色の薄さ、そしてそのロックが活力を得てきた源泉である黒人音楽の要素の薄さが、大きな特徴で、それでありながら不思議な生命力に満ちているところがスフィアン・スティーヴンス (Sufjan Stevens)の魅力です。
そして、スフィアン・スティーヴンス (Sufjan Stevens)自身の囁くようなボーカルを中心とした独特の音響感も大きな特色。ムーン・ライダーズの鈴木慶一のブログの言葉を借りるならば「密度が薄くて広い」音響感。これも、他のロック・ミュージックとかなり異なる肌ざわり。
「イリノイ(ILLINOISE)」は、シカゴ、シアーズ・タワー、エイブラハム・リンカーン、UFOの目撃、滅亡寸前のクリプトン星からカプセルで逃がされた赤ん坊がイリノイ州の都市メトロポリスで子供のいない老夫妻に拾われクラーク・ケントとして育てられていく設定のスーパーマン、といったイリノイにまつわる様々な歴史的・文化的事象をまとめあげて行くコンセプト・アルバム。
この妄想力というか知的好奇心は、科学物から歴史物、神話物までありとあらゆる題材に貪欲に取り組んだ、日本が誇る最強の漫画家手塚治虫に近いものを感じます。
You Tubeにアップされていた、「Chicago」のライヴ、噂の羽、装着済み。
http://www.youtube.com/watch?v=69mLJw0g6MQ&feature=related
いやぁ、早くライヴDVDを出してほしいと思いますが、いかがでしょうか?
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