Web2.0時代の「グローバル金融道」。橘玲「黄金の扉を開ける賢者の海外投資術」
今や個人の国際分散インデックス投資家のバイブルともいえる名著、「臆病者のための株入門」(2006年)の上級版と著者橘玲氏が語る「黄金の扉を開ける賢者の海外投資術」(2008年3月)。
梅屋敷商店街のランダムウォーカー(インデックス投資実践記)、rennyの備忘録といった、インデックス投資のブログでもさっそく話題になっていますが、「臆病者のための株入門」と同じ感覚で、そのまま実践するのはご注意を。
そう、この本は、「ナニワ金融道」ならぬ、Web2.0時代の「グローバル金融道」として、千載一遇の一攫千金の指南本としてではなく、グローバル金融の最新事情、実態のドキュメンタリーとして楽しみかつ利用すべきではないでしょうか?
橘玲氏は、2005年のジェイコム株の誤発注事件、2006年のベトナム株ブーム、2007年の主婦らの為替FX(外国為替証拠金)取引での脱税事件について、マスメディアはこれらを「マネーゲーム」等と囃し立てましたが、一連の出来事の深層には歴史的変化があると指摘します。
その歴史的変化は、Googleの主導する「知識革命」に匹敵する地殻変動を誘発し、世界のかたちを変えていくとし、いつの時代も、未来をいち早く予感した者が黄金の扉を開けるのであると読者を「グローバル金融道」の世界に誘います。
そして、ETF(上場投資信託)等を使い、さらにはレバレッジを効かせた「世界市場ポートフォリオ」、エマージング投資、FX取引、デリバティヴ、ヘッジファンド、タックスヘイヴン等について、他の投資本とは明らかに一線を画す、別次元ともいうべき最新事情、実態が語られて行きます。例えば、エマージング投資については、どうもジム・ロジャースが手本のようですが、おそらく日本人初で現地で口座開設をしたりした実践に基づく、受け売りでない最新事情、実態が語られて行きます。
そうして、橘玲氏は、自由とはたんなる観念ではなく、個人の経済力から生み出されるのであるとし、自由に生きるためには、ひとは経済的に独立していなくてはならず、そのためには、会社にも、国家にも依存せずに、自分と家族の生活を守るだけの経済的基盤を築くしかない、「リタイアメント」とは、すなわち経済的独立性を手に入れることなのだと結びます。
橘玲氏は、あとがきで、本書は、「臆病者のための株入門」の上級者版であり、前著では初心者の読者を想定していたため、投資のいちばんの魅力であるリスキーな部分はあまり紹介できず心残りだったので本書を執筆したとし、本書の実践編が今後出版されるとのことです。
橘玲氏は、Googleの主導する「知識革命」に匹敵する地殻変動を目の前にし、我々の金融リテラシーを一気に引き上げようと考えているのかもしれません。
ただ、橘玲氏ほどの先見性も金融リテラシーもない私が感じるのは、金融でのリスク負担で経済的独立性を手に入れるには相応のリスクを負担せざるを得ず、やはり橘玲氏が本書で言うところの人的資本、すなわち自らの職業での経済力を基本に経済的独立性を手に入れるのが基本だと思います。
橘玲氏が我々の金融フロンティアをどんどん拡大していってくれるのは大変うれしいことですが、あくまでも自らの職業での経済力に対する副次的なものとして、十分なリスク管理の下で利用させてもらうべきではないでしょうか?
P.S.本書を始めとする橘玲氏の書籍には、税務に関する記述が多くみられますが、税務の専門家の私から見ても的確で見事なものだと思いますので付け加えさせていただきます。
| 固定リンク
« ロバート・パーマー(Robert Palmer)が紹介してくれた音楽No.5。トッド・ラングレン「ミンク・ホロウの世捨て人」(M) | トップページ | 夜の湖を泳ぐような音楽を奏でる、ビョークやケイト・ブッシュを彷彿とさせる超新星。ジェスカ・フープ(Jesca Hoop) 「Kismet」 »
「資産運用・投資等」カテゴリの記事
- NISA(ニーサ、日本版少額投資非課税制度、日本版ISA)よりも確実な税制優遇措置があるのをお忘れなく。2013年6月15日付日本経済新聞「個人型確定拠出年金、隠れた投資優遇税制 掛け金、全額を所得控除」(2013.06.15)
- 的確でありながらユーモラス、水道橋博士「週刊藝人春秋」と並ぶ「週刊文春」の目玉です。橘玲「アベノミクス版 臆病者のための資産運用入門」(2013.05.25)
- 節税こそ最も確実なリターン、私も「個人型確定拠出年金(401K)」は絶対お勧めだと思います。竹川美奈子(著)「金融機関がぜったい教えたくない 年利15%でふやす資産運用術」(2013.01.27)
- 池上さんにとっても税金は難しい?池上彰(著)「知らないと損する 池上彰のお金の学校」(2012.03.18)
- 国債急落に備える資産運用が「個人向け国債」?「週刊 東洋経済 2012年 2/4号 検証!大増税 年金、医療、教育は財政再建でこう変わる」(2012.02.01)
コメント