アカデミズムとアナーキズムが織りなす路地裏の「経済学」小説。橘玲「亜玖夢博士の経済入門」
個人の国際分散インデックス投資家のバイブル・「臆病者のための株入門」、Web2.0時代の「グローバル金融道」・「黄金の扉を開ける賢者の海外投資術」という傑作本で、我々の金融フロンティアを拡げてくれる橘玲氏。
橘玲氏が、2007年11月に発表した経済小説ならぬ「経済学」小説・「亜玖夢博士の経済入門」は、我々の経済学フロンティアを拡げてくれる極上のエンターテインメント。
経済のオモテもウラも知り尽くした、路地裏の冷徹な定点観測者、亜玖夢博士こそ、橘玲氏そのものではないでしょうか?
私が、公認会計士試験を受けた頃は必須科目で、価値観を書き換えてくれるぐらい衝撃だったのが経済学。社会全体の厚生を最大化するためには平等かどうかは2の次とか、ミクロの視点では正しいことでもそれが合成されたマクロの世界ではかならずしも意図しない結果が生じることを指す合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)とか、「直感することは実は間違い」、というパラドックス感は実に衝撃でした。
「臆病者のための株入門」でモダン・ポートフォリオ理論を平易に説いてくれた橘玲氏が、「亜玖夢博士の経済入門」では比較的新しい経済学のエッセンスを、路地裏の社会の底辺を這う人を主人公に、平易にかつユーモラスに小説の形で説いてくれます。
お題は、次の5つです。
カーネマンの行動経済学×多重債務問題
ノイマンのゲーム理論×利権争い(私の公認会計士試験ではギリギリ試験範囲だった記憶が・・・)
ワッツとストロガッツのネットワーク理論×いじめ
チャルディーニの社会心理学×マルチ商法(これって、経済学?ですが、特にこの話がお気に入りです)
ゲーテルの不完全性定理×自分探し
はっきり言って、抜群に面白い小説です。アカデミックで冷静な、筒井康隆的なブラック・ユーモアが最高です。私ごときは、ゲーム理論ぐらいしかかじっていませんが(それも受験勉強程度)、各理論をきちんと勉強された方ならもっと爆笑できるかもしれません。
橘玲氏は、経済のオモテもウラも知り尽くした、路地裏の冷徹な定点観測者、亜玖夢博士を目指しているのではというか、1959年生とはいえもうほぼ亜玖夢博士の見識というか、凄いお人です。
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