岡野ハジメのフレーズに対するフェティシズム。スペース・サーカス「スペース・サーカス」(M)
元PINKのベーシストというよりも、今はL'Arc〜en〜CielやPOLYSICSのプロデューサーとして有名な、岡野ハジメのプロ・デビューした幻のバンド、スペース・サーカスの全2作、「スペース・サーカス」(1978年)、「FANTASIC ARRIVAL」(1979年)が紙ジャケ・リマスターで4月23日に再発。
実は、2006年にも再発されていたようですが、メンバーの意向に沿わないものだったらしくすぐに販売中止となっており、今回は満を持してのメンバー公認再発とのこと。
当時、クロス・オーバー(最初はフュージョンと言わなかった)・ブームの中、スペース・サーカスの岡野ハジメのベースといえば、プリズムの和田アキラのギターと並ぶ超絶技巧派プレーヤーとして楽器少年のあこがれの的。この再発は買い逃せないおじさんたちは多いのでは。
左上のジャケット写真が、ファースト・アルバム「スペース・サーカス」、左隣のジャケット写真がセカンド・アルバム「FANTASIC ARRIVAL」。
何と言っても、「スペース・サーカス」が衝撃でした。1曲目「Alibaba」から2曲目「Network」にかけての過剰なまでのカッコいいフレーズに対するフェティシズム(こだわり)は、今聴いても、呆れるとともに一種の爽快感を感じさせてくれます。
セカンド・アルバム「FANTASIC ARRIVAL」は、岡野ハジメのプロダクション・ノートにも触れられていますが、「ベースを引きまくるのに面白みを感じなくなってきて、シンセサイザーやエフェクト、録音機材など、より実験的な事に興味が移行してきていた」そうで、「フレーズ・フェチ」ぶりは後退します。
実は、1983年頃に、とある事情から、当時東京ブラボーのベーシストだった岡野ハジメと何回か会う機会があったのですが、泡沫ベーシストである私の短いベーシスト人生の自慢の一つが、岡野ハジメから「音がいいね」と褒められたこと。
当時の私は、ヤマハのBB2000をアコースティツクのアンプのイコライザーで300kHzあたりを持ち上げて作り出す中低音と、2フィンガーのタッチにはちょっとした自信を持っていたのであります。ファンキー・キャラバンのプロダクション・ノートを見ると、岡野ハジメはドラムのキックとか音の鳴りにうるさいようなので、彼に音を褒められたことは一生の宝にしたいと思います。
ただし、当時の岡野ハジメの前では、スペース・サーカスの話は禁句のような雰囲気がありました。当時は、ニュー・ウェーヴの荒波が音楽界を襲っていて、フュージョン(この頃にはクロス・オーバーと言わなくなっていた)の洗礼を受けテクニック指向に走っていたことを隠すような風潮があったのです。
現在では、プロデューサーとして人気の冨田ラボのようなテクニックへのフェティシズムを、誰はばかることなく公言する人も出てきていますが・・・。
岡野ハジメが関与した音楽、PINK、L'Arc〜en〜Ciel、POLYSICSには、今思うと、音楽性こそ違えど、フレーズに対するフェティシズムという点で一貫したものを感じます。それは、やはり音楽性は違えど、意外と富田ラボと相通ずるものを感じますがいかがでしょうか?
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コメント
去年からディスクユニオンに件の非公認盤が置かれているのは知っていました。タワレコではまったく見なかったのでごく小規模の限定再発なのかと思っていたら、そんな事情があったとは。
そういえばあの頃、フュージョンやプログレなどテクニック上等の世界からニューウエーブに参入してくる向きは、商売上流行にのってみたというケースが多かったですが、岡野ハジメは珍しくかなり自覚的にニューウエーブに身を投じた印象がありますね。考えるベーシストという感じでした。
投稿: MYB | 2008年4月30日 (水) 23時33分
MYBさん、コメントありがとうございます。
岡野さんは、確かに「考えるベーシスト」でしたね。
日本の音楽界を数十年にわたりウォッチしていて解ったのは、山下達郎、佐橋佳幸、冨田ラボといった、他人の動きを気にしないアーティストって「強い」ということですね。
実は、3人ともニュー・ウェーヴに参入しなかった人たちなのですが。
投稿: Accouting&Music | 2008年5月 4日 (日) 00時01分