どうなる異例の事態No.7。平成20年税制改正法案、欠損金の繰戻し還付の不適用、使途秘匿金課税は遡及適用なしの方向か?
開業以来、基本的に与党=自民党の税制改正大綱のとおり行われるのが当たり前だと思ってきた税制改正ですが、当ブログでも続けてご紹介しているとおり、いまだに未成立の平成20年度税制改正法案。
税務研究会の税務通信最新号(平成20年4月21日号)の記事によると、平成20年4月15日の参議院財政金融委員会の質疑で、答弁に立った財務省の加藤主税局長が、従来からの予想通りに納税者に有利な項目についての平成20年税制改正法案の遡及適用(そ及適用)に正式言及するとともに、さらに欠損金の繰戻し還付の不適用、使途秘匿金課税などの納税者に不利益な項目については、改正法案の公布日以降の適用となる旨説明したようです。
■欠損金の繰戻し還付
青色申告をしている会社が、税務上の欠損金を出した場合、翌期以降に繰り越して翌期以降7年間の所得から繰越控除することができ、これを欠損金の繰越控除といいます。
青色申告をしている会社が、税務上の欠損金を出した場合に、翌期以降に繰り越さないで、前年度の所得と通算して、前年度の税金を返してもらうことを、欠損金の繰戻し還付といいます。
欠損金の繰り戻し還付は、一定の例外を除いて、平成20年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金については、適用が停止されていました(租税特別措置法66条の13)。
ところが、ご承知のように、平成20年3月31日までに平成20年税制改正法案が成立しなかったため、現時点では、平成20年税制改正法案が成立するまでに終了した事業年度については、欠損金の繰戻し還付の不適用が期限切れ、すなわち欠損金の繰戻し還付が可能となっています。
財務省の加藤主税局長の説明は、不利益不遡及の原則に従い、納税義務が確定した日よりも後に平成20年税制改正法案が成立すれば、欠損金の繰戻し還付の不適用の遡及適用ができないとの考え方を示したようです。
■使途秘匿金課税
会社が支出した金銭のうちその使途が明らかにされていない使途秘匿金は、違法ないし不当な支出につながり、公正な取引を阻害することになりかねないため、平成20年3月31日までの間に支出された使途秘匿金については、通常の法人税に加えて会社が赤字であっても支出額の40%という高率の法人税が課されます(租税特別措置法62条)。住民税と合わせると、使途秘匿金の額の概算で約87%もの税金を負担しなければなりません。
財務省の加藤主税局長の説明は、使途秘匿金課税は支出ベースで規定されているので、不利益不遡及の原則に従い、使途秘匿金の支出よりも後に平成20年税制改正法案が成立すれば、使途秘匿金課税の遡及適用ができないとの考え方を示したようです。
■税務通信の記事から感じたことNo.1:交際費の損金不算入について
租税特別措置法の期限切れが納税者に有利な項目、すなわち平成20年税制改正法案の成立が納税者に不利益な項目でも、平成20年3月31日までの間に開始する各事業年度」ベースで適用する交際費の損金不算入(租税特別措置法61条の4)については、平成20年税制改正法案成立後に納税義務が確定することが想定されるため、不利益不遡及の原則に従った取り扱いについて言及しなかったようです。平成20年税制改正法案は、従来の予想通り、4月29日以降の衆議院の再議決によって成立することを前提に議論が進められているようです。
■税務通信の記事から感じたことNo.2:欠損金の繰戻し還付の適用が可能な一定の例外をお忘れなく
資本金が1億円以下等の一定の条件を満たす中小企業者の設立事業年度から5年間の各事業年度や、解散・事業の全部譲渡・再生手続開始等の事実があった内国法人の当該事実が生じた日前1年以内に終了したいずれかの事業年度又は同日の属する事業年度には、従来からも欠損金の繰戻し還付の適用が可能であり、平成20年税制改正法案成立後も適用可能な予定です。
また、欠損金の繰戻し還付請求があった場合に、税務署長は、調査を行い、法人税を還付するか、請求の理由がない旨を書面により通知することになっていることから、調査を恐れて、欠損金の繰り戻し還付を行わず、欠損金の繰越控除を選択する場合も実務上多く見かけます。しかし、私の経験上、欠損金の繰戻し還付請求があった場合の調査は、実地ではなく机上の調査であることが多く、不確実な将来の欠損金の繰越控除よりも、確実な欠損金の繰り戻し還付を堂々と選択した方が有利な場合が多いのではないでしょうか?
ただし、欠損金の繰戻し還付は法人税だけで、地方税への適用はなく、欠損金の繰戻し還付を行った場合は地方税だけ欠損金の繰越控除となる点には注意が必要です。
■税務通信の記事から感じたことNo.3:使途秘匿金は課税がなくても合理性がないことをお忘れなく
使途秘匿金は、会社の利害関係者に対して違法ないし不当な支出につながり、経営陣や従業員のモラル低下、非効率な経営資源の配分など諸悪の根源となりますので、たとえ租税特別措置法の使途秘匿金課税なくても支出すべきではないでしょう。
また、税務通信の記事でも指摘がありますが、たとえ支出した会社で使途秘匿金課税が適用されなくても、相手方で得た所得に課税されるおそれが高い点も忘れてはならないと思います。
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