言葉をかみしめながら味わう音楽。鈴木慶一「ヘイト船長とラヴ航海士」
もうそんなになるのかと驚いてしまう、ムーンライダーズの鈴木慶一の17年振りのソロアルバム「ヘイト船長とラヴ航海士」。
私は、知っている人は知っている、ファン歴約30年ムーンライダーズ・ファンで、注いだお金に比例して彼らの仕事への評価は実は厳しい。
くるり「Philharmonic or die」と同じ日に買った、曽我部恵一プロデュースの「ヘイト船長とラヴ航海士」ですが、最初はブログに書こうか迷う地味な印象でしたが、言葉をかみしめながら何度も聴いて行くと、味わいがどんどん増して行く不思議な魅力に満ちています。
鈴木慶一の魅力は大きく分けると3つあると思います。
1.メロディ・メイカーとしての親しみやすくわかりやすいポップなセンス
2.サウンド・メイカーとしての最新の情報をいち早く重層的に織り込むマニアックなセンス
3.ソング・ライター(作詞家)としての聴き手をさりげなく刺激する鋭い言葉の選択のセンス
1.メロディ・メイカーとしての親しみやすくわかりやすいポップなセンスは、斉藤哲夫に提供した「今の君はピカピカに光って」などのCM曲に代表されますが、自身のシンガーとしての肉体的な衰えとともに、徐々に影をひそめてきていると思います。
2.サウンド・メイカーとしての最新の情報をいち早く重層的に織り込むマニアックなセンスについては、1979年~1985年のニューウェイヴ期に代表されますが、1986年のムーンライダーズ「ドント・トラスト・オーバー・サーティー」の「マニアの受難」という曲で「すべての土地はもう人がたどりついてる」と自ら歌った時点から、徐々に減速してきた感があります。
3.ソング・ライター(作詞家)としての聴き手をさりげなく刺激する鋭い言葉の選択のセンスについては、1987年のTHE BEATNIKS「EXITENTIALIST A GO GO 」収録の「COMMON MAN」、1988年の高橋幸宏「EGO」収録の「Left Bank」などに代表されますが、1980年代後半以降の鈴木慶一の最大の魅力はこの部分だと私は思っております。
「ヘイト船長とラヴ航海士」でも、ストレンジ・デイズ2008年4月号掲載のインタビューで鈴木慶一は「暴れまわる歌詞」と表現していますが、まるで手塚治虫の漫画「火の鳥」のように過去・現在・未来が交錯するイメージを発する歌詞は、言葉をかみしめながら何度も聴いて行くと何ともいえない深い味わいがあります。
高橋健太郎氏が、1991年の鈴木慶一の前作「SUZUKI白書 SUZUKI WHITE REPRT」に対するミュージック・マガジンでのレコード評で、「感情だけでもテクニックだけでも決して書くことはできない、微妙な自己対象化のバランスの上に成り立った言葉」とし、鈴木慶一の歌詞の素晴らしさだけは否定し難いと評しましたが、基本的には歌詞をあまり重視しない私も、鈴木慶一の歌詞には抗し難い魅力を感じます。
でも、30年来の鈴木慶一ファンとしては、もっとできるはずとの思いが強く、1.メロディ・メイカーとしての親しみやすくわかりやすいポップなセンスも復活させたアルバムをぜひ期待したいところです。
そういえば、プロデューサーの曽我部恵一は、ムーンライダーズ映画「マニアの受難」で「スカンピン」を歌っていましたが、あの映画のベストトラックでした。「ヘイト船長とラヴ航海士」では曽我部恵一のボーカルは目立ちませんでしたが、次回は曽我部恵一シングス鈴木慶一という趣向のアルバムはどうでしょうか?
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コメント
鈴木慶一の美点は天性のポピュラリティですよね。作詞でいうなら、博文の文学性や技巧をも飛び越えて心をグッとつかみにくる小気味よいセンスだと思います。
私自身はライダーズから心が離れて久しいです。私にとってのライダーズは最初の10年で、90年代以降はほとんど琴線に触れなくなりました。アーカイブシリーズでニューウエーブ期のライブがリリースされることだけを楽しみにしているようなあんばいです。
「抗し難い魅力」で菅井さんをつなぎ止めているところの心にしみる歌詞さえも、私はそれほど必要としない体質だったので余計にライダーズ離れが早かったのかと、菅井さんの分析を読んで納得しました。
無茶を承知でいいますが、80年代後半くらいの技術水準のスタジオ環境で、若いクリエイターの力を借りず、攻めの姿勢で新作に取り組んだら、面白いものが出てこないでしょうかね。
投稿: MYB | 2008年2月24日 (日) 02時23分
MYBさん、コメントありがとうございます。
「天性のポピュラリティ」とのご指摘、ではなぜ売れなかったのか?
その疑問について、考えてみましたので、2008年2月25日 (月)記事をご覧ください。
投稿: Accounting&Music | 2008年2月25日 (月) 22時07分