鈴木慶一のサウンド・メイカーとしてのセンス。ムーンライダーズ「マニアマニエラ」
前回の記事で、鈴木慶一が「親しみやすく洒落たポップなセンス」の後継者として、松尾清憲率いるシネマを指名し、自ら率いるムーンライダーズで作成した「サウンド・メイカーとしての最新の情報をいち早く重層的に織り込むマニアックなセンス」が最も発揮されたアルバムと指摘させていただいた「マニアマニエラ」。
1981年に作成された「マニアマニエラ」ですが、その発売にあたっては、紆余曲折の運命をたどります。
1981年の作成時には、当時所属したジャパンレコード相手に、これじゃ売れない、じゃあ出さないの売り言葉に買い言葉で発売中止。
その後、CDプレイヤーがほとんど普及していない1982年にCDのみでの発売となりましたが、すぐに廃盤。
1984年に、当時なぜか流行したカセットブックの形で発売。
1986年に、ポニー・キャニオンにレコード会社を変え、CD、LP、両方で発売。
といった具合で、今回写真でご紹介しているのは、2006年に、ムーンライダーズ30周年に合わせて再発されたリマスタリング盤です。
1981年のお蔵入り時に、お蔵入り前にプロモーションで枠をとってしまっていたのか、実はFMの番組で一部放送されたことがあります。
確か、「Kのトランク」、「花咲く乙女よ穴を掘れ」、「工場と微笑み」、「スカーレットの誓い」の4曲だったと思いますが、私はそれを幸運にもカセット・テープにエア・チェツクすることができ、当時、夢中になって繰り返し聴いたものです(このカセットのおかげで、周囲から私は筋金入りのムーライダーズ・ファンとして一目置かれていました)。
ちなみに、このFMの番組で、ゲスト出演していたのが、最近はカメラマンとしても有名な佐藤奈々子です。
確か、「ムーン・ライダーズに入りたいんだけれど女だからって入れてくれない~」、「岡田君ってかわいいの~」とか、佐藤奈々子が凄いパワーでメンバーを圧倒していたような記憶がありますが、「マニアマニエラ」における佐藤奈々子の貢献は絶大なものがあると思います。
鈴木慶一の音楽がいっぱいつまったトランクをイメージして作詞したという「Kのトランク」、「檸檬の季節」の素晴らしい作詞はもちろんのこと、ヨゼフ・ボイスのポスターに書かれていた「Without the rose, we don't make it」という言葉からインスパイアされたらしい、「薔薇がなくちゃ生きていけない(I can't live without a rose )」という、いつの時代もカッコ良さを失わない「マニアマニエラ」のテーマをメンバーにもたらしたのが佐藤奈々子なのです。
今改めて聴き直してみても、「マニア・マニエラ」のサウンドは実に新鮮です。当時流行したフライング・リザーズやアインシュテュルツェンデ・ノイバウテン等からインスパイアされたと思われる、ミニマル・ミュージックやインダストリアル・ノイズ等の現代音楽的なスパイスの効いた、コード感を薄めた緊張感の高いソリッドなサウンドは、今なお色褪せません。
この頃のムーン・ライダーズは、1990年代のピチカート・ファイヴ、1990年代中頃から現在までのコーネリアスこと小山田圭吾と同じくらい、毎回どんな新しいことをやってくれるのかが実に楽しみな存在でした。
そういえば、ミニマル・ミュージックやインダストリアル・ノイズ等の現代音楽的なスパイスの効いた、コード感を薄めた緊張感の高いソリッドなサウンドというのは、コーネリアスこと小山田圭吾の多くの人が認める傑作、「POINT」(2001年)、「SENSUOUS」(2006年)につながるものを感じますがいかがでしょうか?
| 固定リンク
「音楽等(やや通向)」カテゴリの記事
- アカウンティング&ミュージック 2021年洋楽再発・再編集等ベスト3。クリス・レインボウ(Chris Rainbow)「ルッキング・オーヴァー・マイ・ショルダー(Looking Over My Shoulder)」他(2022.01.04)
- アカウンティング&ミュージック 2021年邦楽ベスト5。東京事変(Incidents Tokyo)「音楽(MUSIC)」他(2022.01.03)
- アカウンティング&ミュージック 2021年洋楽ベスト5。ダニー・エルフマン(Danny Elfman)「Big Mess」他(2022.01.02)
- アカウンティング&ミュージック 2020年邦楽再発・再編集ベスト3。宮本浩次(Hiroji Miyamoto)「ROMANCE(ロマンス)」他(2021.01.10)
- アカウンティング&ミュージック 2020年洋楽再発・再編集ベスト3。ピーター・ホルサップル&クリス・ステイミー(Peter Holsapple & Chris Stamey)「Our Back Pages(アワ・バック・ページ)」他(2021.01.10)
コメント
フライングリザーズ! なるほど!
確かにあの「引き算の発想でポップな音をつくる」みたいなセンスはマニアマニエラと通底していますね。
MC4のような新兵器を導入したらついやりすぎてトゥーマッチな音になりそうなものですが、一方に前衛系の音楽の影響があったので、絶妙なさじ加減であの画期的なサウンドができたということでしょうか。
「緊張感の高いソリッドなサウンド」ながら色彩感豊かに感じられるところがまた不思議に魅力的なアルバムだと思います。
投稿: MYB | 2008年3月 2日 (日) 02時08分
MYBさん、コメントありがとうございます。
なぜ、フライングリザーズなんて名前が出たかというと、先日、NHKBSで「小山田圭吾の中目黒テレビ~コーネリアス・ワールド・ツアー 2006-2008」という番組をやっていて、その時使われていたのがフライングリザーズ「マネー」!
今の気分に実にぴったりな感じで、アナログしか持っていないので思わずAmazonに発注かけてしまいました。
あと、ブログに書き忘れたけど、マニア・マニエラの緊張感はテープ・ループの多用にあると思います。ポリリズムよりも、不一致が激しいので緊張感があり、今聞くとそのズレの感覚が実に新鮮ですね。
投稿: Accounting&Music | 2008年3月 3日 (月) 23時37分