景気悪化。井上和弘「儲かるようにすべてを変える」を手に「たたむ・削る・変える」。
資源価格上昇、米サブプライムローン問題に端を発する世界同時株安と円高進行、改正建築基準法による建築確認の期間長期化と確認申請手控えによる建設・不動産業界への悪影響・・・。帝国データバンク社の「TDB景気動向調査」の統計値でも明らかですが、中小企業をとりまく環境が急速に悪化してきたのをひしひしと感じる今日この頃です。
こんな時には、中小企業の事業自体の再生の唯一といってもいいバイブル、井上和弘「儲かるようにすべてを変える」(2000年)を参考に、経営を「たたむ・削る・変える」ことが今また重要になってきたと思います。
「儲かるようにすべてを変える」の著者井上和弘氏は、あとがきで次のように語っています。
私は、これまで著作や一般講演を極力控えてきた。
経営コンサルタントを職業に選んで、はやくも30年たつが、その間に出した単行本は、たったの二冊にすぎない。講演や原稿書きに追われるくらいなら、その時間を企業の中に深く入り込んで、「儲かる会社づくり」の実践指導にあてるべきだと考え、黒子役に徹してきたからである。
その私が今回なぜ出版に踏み切ったのか、その理由を申し上げておきたい。
実戦の現場で指導を重ねていると、関連企業の経営者と直接接する機会が毎日のようにある。そのときつくづく感ずることは、「経営環境が一変したのに、旧態依然の経営手法を改めようとしない社長が世の中には実に多い」ということだ。
本書「儲かるようにすべてを変える」には、実践で培われた説得力があります。「スクラップ&ビルド」と言わず「たたむ・削る・変える」という言葉を使うことに代表されますが、数多くの「変えられない社長」を変えさせるために実戦で考え磨き抜かれた、井上和弘氏の自分の言葉と手法が満載されています。
2000年4月の発売当時、中小企業の事業自体の再生については、経営学的手法を総花的に語った書籍が多く、思わず「本当によく言ってくれた」とポンと手を打った方は私だけではなかったはずです。井上和弘氏は当時知る人ぞ知るコンサルタントで、税込10,290円もするにもかかわらず、「儲かるようにすべてを変える」はかなりの部数が売れたようです。
井上和弘氏は、業種、規模を問わず、どの会社でも通用するこれからの経営のキーワードは、「たたむ・削る・変える」の3つであるとします。
だが、この3つのキーワードほど頭で分かっていても実行が難しいものはないとします。それは、設備を拡張する、売上を増やす、人を増やす、新しい制度を付け加えるといったインフレ経営が何十年もの間にわたって経験値として体に馴染み判断基準が自分なりに確立されているからだとします。
ところが、井上和弘氏は、社長の多くが、「たたむ・削る・変える」を敗戦処理のように受け取ったりデフレだからやるというのは誤解であり、会社をいつも健全な状態に保とうとすれば永遠に、「たたむ・削る・変える」を繰り返していかなければならないとします。
具体的に、「たたむ・削る・変える」を顧客と商品と社員にあてはめると以下のとおりとなるとします。
「たたむ」とは、顧客との取引を停止すること、商品は廃止すること、社員は解雇すること。
「削る」とは、顧客との取引上限を決める、取引条件を変更する、商品はアイテムを削減する、社員は異動するか、減給するか、不採算部門を撤退すること。
「変える」とは、顧客についてチャネルを変える、直接販売あるいは間接販売に変更する、商品はデザインやネーミングの変更、社員については給与体系の変更、パート化、外注化へと変えてくこと。
そして、どの業種・業態の会社でも、まず第一にやるべきことは「商品の絞り込み」であり、自社の強みだけを残して、それ以外のものを「たたむ・削る・変える」が重要だとします。
こうやってまとめると当たり前のことですが、SWOT分析とかコア・コンピタンス経営といった言葉を使うと、中小企業経営の世界ではなかなか心に響いてこないのですが、井上和弘氏の言葉は心にずっしりと響いてくるのです。
これからも景気の浮き沈みは何度も繰り返して行くことでしょう。井上和弘氏が指摘するように、会社をいつも健全な状態に保つため永遠に「たたむ・削る・変える」を繰り返して行くならば、その荒波をうけながらも中小企業経営という航海を持続的に進めることができるのではないでしょうか?
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