民事再生法、会社更生法等での資産評価益計上後の減価償却。減損会計の減損処理後の減価償却から考える(評価益・定率法編)。
近年のデフレ経済下だとなかなか起こり得ないのではありますが、民事再生法、会社更生法等での財産評定に伴う資産の評価益を計上後の減価償却をどうするかについては、 法人税法上は、当初の取得価額に財産評定益を加算した金額を取得価額とみなして減価償却を行うことを除いて特別な規定がないため、償却率の見直しが行われずその他の点では基本的に従来通りの減価償却方法を継続することになります。したがって、会計上の減価償却の方法も同様とすると、経済的実態を適切に表したものとは言えない場合もありえるかと思われます。
前回の評価益・定額法編に続きまして、今回は定率法について、評価益と損失との違いはあるのですが、類似の処理である固定資産の減損後の減価償却の取り扱いの公的指針に準じて、財産評定益計上後の会計上の減価償却を行うとどうなるか、簡単な例を用いて考えてみます。
以前の評価損の場合と同様に、「固定資産の減損に係る会計基準」(平成14年8月9日企業会計審議会)、企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(平成15年10月31日企業会計基準委員会)の取り扱いに準じて、民事再生法、会社更生法等での財産評定益計上後の定額法による減価償却について、次のような簡単な例を用いて考えてみます。
■設例
当初の取得価額 100 当初残存価額 10 当初償却可能限度額 5
法定耐用年数 10年 減価償却方法 定率法 当初償却率 0.206
財産評定益計上時 5年目末 財産評定額 52 財産評価益 20
減損会計に準ずる場合は、税法規定に基づく容認規定を利用するものとする。
資産は平成19年3月31日以前に取得し、法人税法の旧償却方法で償却可能限度額まで償却するが、残額は償却可能限度額まで達した翌事業年度以降5年間で均等償却するものとする(なお、法人税法では1円まで)。
減価償却の計算は、とりあえず10年目末(11年目期首)まで行うものとする。
■資産評価損後の減価償却の計算例(定率法)
法人税法に従った場合 | 減損会計に準ずる場合 | ||||||||||
基礎となる 帳簿価額 |
評価益加算後の帳簿価額 | 52 | 評価益加算後の帳簿価額 | 52 | |||||||
残存価額 | (当初取得価額+評価益)×10% (ただし、5%まで償却し、残額は5%まで達した翌事業年度以降5年間で均等償却) |
12 | ■原則 耐用年数到来時の予想正味売却価額 ■容認 税法規定に基づく残存価額(当初取得価額の10%(ただし、5%まで償却し、残額は5%まで達した翌事業年度以降5年間で均等償却)) |
12 | |||||||
耐用年数 | 法定耐用年数 | 5 | ■原則 評価益計上時点における経済的残存使用年数 ■容認 残存耐用年数 |
5 | |||||||
償却率 | 当初償却率 | 0.206 | 上記に応じて見直した償却率 取得価額をA0, 耐用年数をn, 残存価額をAn, 償却率をrとして、 An = (1 − r)nA0 |
0.253 | |||||||
評価益なし | 法人税法に従った場合 | 減損会計に準ずる場合 | |||||||||
期首 簿価 |
償却率 | 償却額 | 期首 簿価 |
償却率 | 償却額 | 評価益 | 期首 簿価 |
償却率 | 償却額 | 評価益 | |
1 | 100 | 0.206 | 21 | 100 | 0.206 | 21 | 100 | 0.206 | 21 | ||
2 | 79 | 0.206 | 16 | 79 | 0.206 | 16 | 79 | 0.206 | 16 | ||
3 | 63 | 0.206 | 13 | 63 | 0.206 | 13 | 63 | 0.206 | 13 | ||
4 | 50 | 0.206 | 10 | 50 | 0.206 | 10 | 50 | 0.206 | 10 | ||
5 | 40 | 0.206 | 8 | 40 | 0.206 | 8 | 20 | 40 | 0.206 | 8 | 20 |
6 | 32 | 0.206 | 7 | 52 | 0.206 | 11 | 52 | 0.253 | 13 | ||
7 | 25 | 0.206 | 5 | 41 | 0.206 | 8 | 39 | 0.253 | 10 | ||
8 | 20 | 0.206 | 4 | 33 | 0.206 | 7 | 29 | 0.253 | 7 | ||
9 | 16 | 0.206 | 3 | 26 | 0.206 | 5 | 21 | 0.253 | 5 | ||
10 | 13 | 0.206 | 3 | 20 | 0.206 | 4 | 16 | 0.253 | 4 | ||
11 | 10 | 16 | 12 | ||||||||
合計 | 90 | 104 | 20 | 108 | 20 |
定率法に関しても、定額法ほどえはありませんが、法人税法の規定に基づく場合は、減損会計に準ずる場合に比べて、償却が遅くなってしまうのがわかります。これは、法人税法の規定だと、耐用年数を残存耐用年数ではなく法定耐用年数のままとし、当初の償却率を見直さずにそのまま使うためです。
上記のとおり、民事再生法、会社更生法等での財産評定に伴う資産の評価益を計上する場合は、評価益については法人税法上も一定の条件を満たせば益金となりますが、資産の評価益計上後の減価償却については会計上の減価償却と乖離が生じてしまうおそれがあります。
評価益の場合には、一般に法人税法の償却限度額の方が少額になると思われ、会計上で適切な減価償却方法を採用しても、法人税法上の所得計算上申告調整により限度超過額を加算する必要があり、2種類の減価償却を行うため固定資産管理システム上で税務と会計の2重管理が生じること等も含めて問題があります。
確かに、近年のデフレ経済下だと評価益となるケースはなかなか起こり得ないのではありますが、古くから倒産手続に携わってらっしゃる田中亀雄公認会計士のような方にお聞きすると、バブル時の会社更生手続だと手続中に不動産がどんどん値上がりして困ったということもあったようです。
ぜひとも、今後は法人税法の減価償却の簡素化の議論と並行して、民事再生法、会社更生法等での財産評定に伴う資産の評価益計上後の減価償却の会計との整合性も実現してもらいたいところです(減損会計との整合性もですが)。
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