意外と知らない個人の確定申告豆知識No.3。含み益のある不動産を売却して保証債務を弁済した倒産会社のオーナー社長個人は確定申告が必要か?
民事再生手続、破産手続他により支払不能となったいわゆる倒産会社のオーナー社長個人が、保証債務の履行請求を受け、担保に差し入れているオーナー社長個人所有の不動産を、競売や任意売却により売却して、代位弁済することはよくあります。
その際、不動産に含み益がある場合は、その他の所得で確定申告が必要でない場合でも所得税の確定申告が必要になるのでしょうか?
■含み益のある不動産を売却して保証債務を弁済した倒産会社のオーナー社長個人の確定申告
「含み益のある不動産を売却したのだから、譲渡所得が一般に生じるはずであり確定申告が必要だ」とお答えになった方はお詳しい方です。
さらに、「含み益があっても、居住用財産の3,000万円の特別控除や、保証債務の求償権行使不能による譲渡所得計算の特例により、課税を避けられるかもしれないが、その特例を使うにも確定申告が必要だ」とお答えになった方はかなりお詳しい方です。
しかし、意外と知られていないようですが、所得税の確定申告がそもそも必要ない場合もあるのです。
■強制換価手続等による資産の譲渡の非課税
資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合で、
1.競売等の強制換価手続による資産の譲渡による所得
2.競売等の強制換価手続の執行が避けられないと認められるときで、その譲渡対価が当該債務の弁済に充てられたときの譲渡による所得
は所得税が非課税とされます(所得税法9条1項10号)。譲渡所得がそもそも非課税ならば、その他の所得で確定申告が必要でない場合は、所得税の確定申告は必要ありません。
■資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合の意義
「債務者の債務超過の状態が著しく、その者の信用、才能等を活用しても、現にその債務の全部を弁済するための資金を調達することができないのみならず、近い将来においても調達することができないと認められる場合をいい、これに該当するかどうかは、これらの規定に規定する資産を譲渡した時の現況により判定する」とされます(所得税基本通達9-12の2)。
■保証債務の履行請求により債務超過の場合でも強制換価手続等による資産の譲渡の非課税の規定は適用されるのか?
税務上は、保証債務については履行請求を受けても確定した債務として認められない考え方がとられる場合もあり、保証債務の履行請求により債務超過の場合でも強制換価手続等による資産の譲渡の非課税の規定は適用されるのかが問題になります。
この点については、明文の規定はなく解釈に委ねられるのですが、主債務者等に対して求償権の行使ができない状況にあり債務超過の状態が著しく、その他の所得税基本通達9-12の2の要件も満たす場合は、強制換価手続等による資産の譲渡の非課税の規定は適用されると解して問題がないようです(私が国税相談室の電話相談で確認した際も同意見でした)。
■資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難とまで行かない場合
この場合は、強制換価手続等による資産の譲渡の非課税の規定は適用されませんので、居住用財産の3,000万円の特別控除や、保証債務の求償権行使不能による譲渡所得計算の特例の適用等を検討の上、確定申告が必要となります。
また、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難と言い切れるかどうかグレーな場合も、居住用財産の3,000万円の特別控除や、保証債務の求償権行使不能による譲渡所得計算の特例の適用等で課税が回避又は軽減できるのであれば確定申告によりリスクヘッジしておく場合も考えられるでしょう。
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