加藤和彦がヘミングウェイならS-KENはヘンリー・ミラー。エスケン&ホット・ボンボンズ「千の眼」
共通点は、第一にアメリカの作家の生き方に影響された作品という点です。加藤和彦がアーネスト・ヘミングウェイなら、S-KENはヘンリー・ミラーです。「千の眼」の発売と同時期に出版されたエスケン「異人都市TOKYO 20世紀末の孤立惑星東京に大量侵入した外国たち」で以下のように本作のタイトルであるヘンリー・ミラーの言葉「千の眼」を引用しています。
ビートニクの元祖ともいえる今は亡きヘンリー・ミラーは「わが青春のともだち」(75年、徳間書店)でこう書いている。
「子宮の天国と友情の天国との相違は、子宮のなかではひとは盲目だということである。ともだちはきみに、インダラ女神のように、千の眼を与えてくれる。ともだちを通じて、無数の人生を経験する。違った次元を見る。さかさまに、また、裏側から、人の世を生きる。きみのともだちの最後の一人がこの地上から消え失せたとしても、きみは現に独りではないし、将来とも決して独りとはならないだろう。」
君のともだちが、君が属している社会や国家から断ち切れた異人であればあるほど、君が持つことになる”千の眼”は、するどさを増すだろう。
共通点の第二は、その当時の腕利きのミュージシャン達をとりそろえた点です。加藤和彦は、大村憲司(G)、小原礼(B)、高橋幸宏(D)、坂本龍一(KEY)、S-KENは、窪田晴男(G)、佐野篤(B)、松永俊弥(D)、矢代恒彦(KEY)といった具合です。
共通点の第三は、グローバルな視野で繰り広げるグッド・ミュージックである点です。加藤和彦はアイランド・レーベルのオーナークリス・ブラックウェル所有のバハマのコンパスポイントスタジオを使用しレゲエやカリブ音楽を取り入れていますが、S-KENも国内録音ながらブーガルー、ラテン、サルサを積極的に取り入れています。
共通点の第四は、最も重要な点ですが、知的でスタイリッシュな点です。この二人は今までいろいろな活動を行っていますが、何をやってもセンスよくまとまるという品の良さをもっており、それがグッド・ミュージックを生む源泉だと思います。
川勝正幸氏の本作の解説によるとS-KENは「コンセプトもなしに、自然に、日常的な流れの中で出来上がった」と言ったとしていますが、S-KENの他の作品よりは作りこみが弱い緩めの仕上がりになっているのでリラックスして聞きたいところです。
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コメント
菅井さんがこれほどまでにS-kenを聴きこんでおられたことに驚いております。異人都市TOKYOまでフォローされていたとは。
「千の眼」の頃にはボンボンズの皆が売れっ子になっており、スケジュール調整も難しく、そうとうタイトなレコーディングだったと当時のインタビュー記事かMCかで知りました。「作りこみが弱い緩めの仕上がり」には、そういう事情もあったと思われます。
特に多忙だった窪田晴男はライブ参加もままならなくなり、この年の後半から今堀恒雄に交代となりました。(4月の東京ソイソースが窪田ラストで、11月のクアトロが今堀初登場、たぶん。)メンバーチェンジを経ての次作ではワールドミュージックの影響が濃厚になることからも、「千の眼」は過渡期の作品だったのかもしれませんね。
「パパ・ヘミングウェイ」は私も大好きです。加藤和彦のヨーロッパ三部作も紙ジャケ再発されてますが、「何故、ソルティ・ドッグをボーナス収録しない」「何故、ルムバ・アメリカンのイントロをアナログ時の仕様に戻さない」という2点がいまだ納得いきません。
投稿: MYB | 2008年1月25日 (金) 18時05分
MYBさん、コメントありがとうございます。
「パパ・ヘミングウェイ」のCDは金子国義画伯のジャケットを持っていますが、音があまりよくありません。Amazonのカスタマーレビューを見ると紙ジャケも同じ音源みたいですね。オリジナルジャケットの方がデザインはいいので紙ジャケを本当は欲しいのですが。
「ルムバ・アメリカン」といえば、1980年頃の土曜日夜7:30フジテレビ、加藤和彦&竹内まりやの「アップル・ハウス」で、ムーンライダーズの振り付け付きバックのバージョンが印象に残っています。「アップル・ハウス」ですが、いくら大型新人竹内まりやの売り出しがらみとしても、土曜日のゴールデンによくあの番組が放映できたと今でも感心いたします。
投稿: AccountingMusic | 2008年1月26日 (土) 22時23分
ヨーロッパ三部作の紙ジャケ版、リマスタリングされていますよ。リイシュー関係のクレジットに表記があります。
ただ、オリジナルのアナログ盤ではなく、初回CD版の音源をリマスタリングしたってことになりますかね。アナログ盤と初回CD版では収録タイムが違う曲がけっこうあります(はなはだしきはイントロ1分削られて4分が3分になったルムバ・アメリカン)。収録タイムで比べてみたところ、紙ジャケ版の中味は初回CD版からのもののようです。ところが、紙ジャケ上ではオリジナルのジャケに印刷されていた曲の収録タイムも元のままなので、プレイヤーに表示される実際のタイムと合わないという妙な具合になってます。
投稿: MYB | 2008年1月27日 (日) 01時33分
MYBさん、コメントありがとうございます。
「パパヘミングウェイ」紙ジャケ入手してみました。
奥村靱正デザインのオリジナル・ジャケットやっぱり最高ですね。今野雄二氏の解説を見てそうそうそうだったという感動がありますね(アナログ盤は実家においたままなので)。
音は最近のリマスタリング技術を考えるともう少しがんばってほしいところです(2004年ということも考慮しても)。
投稿: AccountingMusic | 2008年1月28日 (月) 23時38分