疑似DESと債務消滅益課税。税務QA2007年12月号「デット・エクイティ・スワップ(DES)の実務」
通称DES、デット・エクイティ・スワップ(債務の資本化)とは、債権者が債務者に対する債権を現物出資し債務者の債務を消滅させ、債務者の資本を増加させる増資の手法です。
以前は、債務者側の税務上の取り扱いが明確ではなかったのですが、平成18年度税制改正において、新株発行において増加する資本金等の額は、払い込まれた金銭の額および給付を受けた金銭以外の資産の価額(現物出資資産の時価)と規定され、債務超過会社など経営が悪化した会社でDESを行うと、債権の時価と額面額との差額が債務消滅益として課税される可能性が生じました。
一方、疑似DESとは、債権者が金銭払込みによる増資を行った後で、債務者が債権者に債務を弁済する方法で、結果的にDESと同様な効果が得られます。会社法施行前の現物出資は原則として裁判所の選任する検査役の調査が必要であったため、手続きの迅速性からあくまでも金銭出資である疑似DESが用いられることも多かったようです(平成14年公表の株式会社長谷工コーポレーションのDESなど)。
疑似DESは、現物出資ではなくあくまでも金銭出資ですので、債務者の債務額相当額が払い込まれるならば、平成18年度税制改正後においても債務消滅益が生じないはずですが、DESと効果は同じであり問題はないのか疑念が生じるところです。
この点については、昨年9月に出版された手塚仙夫公認会計士、稲見誠一税理士、西村美智子税理士による「『純資産の部』の会計と税務」清文社で債務消滅益が生じない旨が明言されていましたが、太田会計士も、「払い込む資金が用意できなければ成り立ちませんが」と前提条件をつけつつも、「税法規定に照らして、金銭出資により払込金額により資本金等の額が増加し(法令8①一)、一方において債務の弁済という行為により債務が消滅しますので、原則として、課税関係が生じません。」と明言されています(私が知る限りでは太田会計士も書籍で言及されたのは初めてではないでしょうか)。
ただし、太田会計士も「原則として」としているように、経済合理性のない租税回避のみを目的とした疑似DESなどは、同族会社の行為計算の否認等を論拠に課税当局から異なる課税関係を主張されるリスクがあるので留意する必要があるでしょう。
なお、法律的には、疑似DESは、第三者から借り入れた金を株式の払い込みに充てて増資後それを引き出して借入金の返済に充てる行為を典型例とするいわゆる「見せ金」にあたらないかも問題になります。この点については、藤原総一郎弁護士の「DES・DDSの実務」きんざいによれば(疑似DESではなく現金払込型DESと呼んでいますが)、効果が同じ現物出資型DESを資本充実に反しないと判断していること、純資産が増加し他の債権者や株主を害することがないこと等を理由に「無効とみなす必要性も存在しない」と解するようです。
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